「善悪の知識の木の実(知恵の実)」と言えば、りんごで表現されることが多いワケですが、
文化圏によっては、イチジクやブドウ、あるいはバナナ、ザクロ、キャロブ、シトロン、ナシ、ダチュラなどで表現されること(あるいはそれだと見なされていること)もあるそうです。(※wiki情報)
しかし、このたびユダヤ民話を読んでおりましたら、まったく知らないフルーツが突如ランクインしてきましたので、それについて紹介してみます。
そのフルーツとは「アノーナ(チェリモヤ)」。
今日は、該当するユダヤ民話のあらすじと、アノーナ(チェリモヤ)を試食してみたのでそのレポを紹介してみます。
「アノーナ」は、日本では和歌山県の農園さんが栽培されているという情報を得ましたが、季節が10月あたりだそうで、タイミングが合わないので取り急ぎ試食前に公開します。ただし、アノーナ(チェリモヤ)の改良種である「アテモヤ」は入手して試食することができましたので(沖縄県の農園さん)、そちらのレポートは掲載しています。
目次
ユダヤ民話「お静かに、父が昼寝しております」よりあらすじ紹介
むかしむかし、
オフィルの地(※)にアノンという若者がいた。
アノンは好奇心の強い男だった。
ある夕べ、アノンは村の長老からエデンの園と
そこにあるふしぎな知恵の木についての話を聞いた。
その果実を口にしたものはだれでも『神の知恵を授かる』らしいという話も。
アノンは興味をそそられて、長老にその果物の形を尋ねたが、
長老は「誰もはっきりとは知らない」ことを告げた。
ただ、「松ぼっくりのような形をしているという者もいる」と付け加えた。
アノンはいてもたってもいられなくなって、
「知恵の木の実を口にして、最高の知恵の者になる」と宣言して、
次の日にはエデンの園を探す旅に出た。
アノンは何日も彷徨い歩き、
とうとう、目の届く限りどこまでも
果てしない大きな石壁にたどり着いた。
石壁のむこうからは、
さわやかな木々の香りや芳しい果物の匂いがただよっていた。
「こここそエデンの園に違いない」と思ったアノンは、
入り口をさがした。
そこにイタズラ好きの小鬼が石壁のすきまからアノンを見つけて、
「この人間と、ついでにエデンの園の番人を、ちょっとからかってやろう」
とひとりごちて、石壁に亀裂を作った。
それを見つけたアノンは、そこからエデンのそのに入り込んだ。
立ち上がって歩きだそうとしたアノンの目の前に、
今まで見たことのない実をつけている木があらわれた。
長老のことばを思い出したアノンは
「これこそ知恵の木の実だ!」
と思い、実をひとつもいで、割って食べた。
この世のものとは思われない味が身体じゅうに広がった。
品のよい、程よい甘さ。
その果物に祝福されている気分になった。
しかし、アノンが夢中になって果物を食べていると、
ほどなくエデンの園の番人に見つかり、
はるかなたの荒れ果てた山あいまで蹴り飛ばされた。
はたして、
アノンが口にしたのが「知恵の実」だったのかどうかは、
わからない。誰にも知りようがない。
だが、アノンは、あのえもいわれぬ果物のことをずっと忘れられなかった。
アノンは、こっそり懐にしまいこんでいた
あの果物の小さな黒い種を、川のほとりにまいた。
そして育った木の実に自分の名前をつけた。
そう、それが、あらゆる果物のなかで王者の味わいを持つといわれる、アノーナなのだ。
母袋夏生「お静かに、父が昼寝しております」(pp.103-106より あらすじ要約)
LEGENDS OF FRUITS IN ISLAEL[PEROT ARTZENU]by Uriel ofek
旧約聖書で金の産地として語られる地名。ソロモンの時代に,金,象牙,サル,クジャク,ビャクダンの木などをこの地から運び出したという (列王紀上9・28,10・11) 。東アフリカ,東方,アビシニア (エチオピア) ,アラビアと諸説があるが確定できない。
アノーナ(チェリモヤ)&アテモヤ 食レポ
ってことで、この「アノーナ」とはどんな果物なのか、さっそく調べてみました。
いかんせん日本語コンテンツが少なかったので、調べるのもまぁまぁ大変でした。
(「アノーナ」が「チェリモヤ」だとわかってからはどうにか調べやすくなりました)
今回わかったことをまとめてみたいと思います。
アノーナ(チェリモヤ)

南米のアンデス高地に原生した『チェリモヤ』は、ペルーでは有史以前から栽培されインカの住民にこよなく愛され親しまれてきた果物です。チェリモヤは現地語で「冷たい乳房(Chirmoyu)」の意味。
『チェリモヤ』は“天然の傑作”と称えられ「世界三大美果」の1つに数えられています。
「トム・ソーヤの冒険」で有名な小説家、マーク・トウェインも絶賛したフルーツなんですよ。
見た目からは想像し難いほどの甘さと食感を持つ『チェリモヤ』は、スペインでは「アイスクリームの木」、アメリカでは「カスタード・アップル」と称されています。
https://item.rakuten.co.jp/ookiniya/cyerimoya/
日本でもどうにか栽培されてはいるようですが、時期が10月~12月とのことで、秋を待ちたいと思います。冷凍品ならば年中入手可能なようですが、
私たちはとりあえず日本産のものの入手を考えております。
時期が10月~12月ということで、当コラム製作者たちはまだ入手できていません。入手して食べることができたら追記していきたいと思います。
アテモヤ
アノーナ(チェリモヤ)をさらに改良した品種、「アテモヤ」なら入手できましたので、さっそく食べてみました。


(沖縄の恩納村で作られたアテモヤを購入しました!)
アテモヤは、バンレイシ(釈迦頭とも言われる)とチェリモヤの掛け合わせで誕生した南国フルーツ。その実はとても甘く乳白色をしていて「森のアイスクリーム」とも呼ばれています。「アテモヤ」という名前は、ブラジルでのバンレイシの名である「アテイ」と、チェリモヤの「モヤ」を組み合わせて付けられました。
https://delishkitchen.tv/articles/1848
英語でシュガーアップルとも呼ばれるバンレイシは、甘みの強い果実として知られています。また、チェリモヤはカスタードアップルとも呼ばれる果物で、アテモヤはこの2つの果物を掛け合わせたフルーツです。
おいしい。ちょっとラ・フランスみたいな部分もありつつ、マンゴーみたいな食感の部分もありつつ、マジで食べたことない味。私の語彙力では表現できない。これが水が貴重な国にあったら死ぬほど愛す自信はある。アノーナより安いし、アノーナよりは栽培してる農園さんが多いので入手もしやすいと思う。
アノーナ(チェリモヤ)は「知恵の木の実」だったのか?~ヘブライ語の意味を添えて

けっきょく、アノーナは「善悪の知識の木の実」だったのかな?
と思う方がどれくらいいるのかわかりませんが、とりあえずこのあたりについて言えることを言ってみようかなと思いますが…
まず、「知恵の実」こと「善悪の知識の木の実」についての研究者の見解をちょっと紹介すると…
ここで使用される「善悪」に当たるヘブライ語は倫理的な「善悪」のみならず、「良し悪し」「美味い不味い」「上手い下手」「美醜」「利害」など、きわめて広範囲の二分法を示す表現である。また「知る」という動詞も知識として「知る」ことのみならず、経験すること、体験することで「知る」こと、さらには性的関係を持つことなどさまざまな事柄を表す。
岩嵜大悟「聖書は死の起源についての神話を語るのか?――ヘブライ語聖書「原初史」を中心にして(「死の神話学」収録,2024,晶文社 p.82
このように「善悪」「知る」共に広範囲の意味を有すため、この木がその名前で、この木のどのような性格を示しているのか、多くの見解が示されており、学問的な一致は得られていない。
…だ、そうで、
そもそもこの「善悪の知識の木(の実)」というのは、食べたらどうなるのかほぼわからんシロモノ、なので、アノーナを食べた後のアノンの様子から推察することなども不可能…かと思いました。
それに何より、民話のテキスト(語り)自身が「果たしてアノーナが知恵の木の実だったのか、それは誰にもわからない。知りようがない」と、その可能性を放棄しているので、
この説話自体はあくまで「アノーナの由来譚(起源譚)」だと考えておきたいな、と思います。(あるいはアノーナの強火セールストーク…)
それはそうとして、アノンをエデンの園に入れるのに一役買った小鬼はアスモダイだろうな、とは思います。(知らんけど)
もし「アノーナ(チェリモヤ)」を召し上がられたことがある方がいましたら、どんなお味なのか教えてくださるとうれしいです。
また、当コラムで紹介した説話はあらすじであります。
「お静かに、父が昼寝しております」には、母袋夏生先生の素敵な訳でもっと素敵な物語が読めるので、(創世記のはじめのほうのお話などもあり、ユダヤ的なトーラー解釈の一端に触れられるようなかんじもある書籍ですので)ぜひお読みください。