このウェブサイトでは、これまでエヴァとキリスト教についての記事に寄稿いただいたり、まとめたりしてきました。
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【まとめ】エヴァンゲリオンと聖書の考察11選。キリスト教をどう引用しているかガチで検証
そこでやたらと『リリス』というキーワードが気になったのですが、ライター自身はその『リリス』が聖書由来だとは思っておらず、
やっべ、リリスって何?
とあせってしまいました。今日は、その『リリス』に関する日本のクリスチャンの肌感覚を少し共有できたらいいかなーと思います。
【呼称についてメモ】
リリス
リリッツ
エル・カリネー(「アラブ人」はリリスをこう呼ぶとか「世界神話伝説体系」パレスチナ編 より)
目次
『リリス』とは?聖書(※)にあるのか
(※)ここではキリスト教徒が『聖書』と呼んでいるものを指して話を進めます。
【リリスとは】
(引用:https://dic.pixiv.net/a/リリス)
聖書(創世記1‐27の民間伝承での解釈)では、リリスはイヴの前に神によって創られた最初の女であり、二人目の人間であるとされている。
リリスはアダムと同じく土から作られたので我が強く男女平等を要求し、アダムや神に従う事を拒否した。そしてリリスは神に背き、夫であるアダムを捨て楽園を飛び出し、海の畔に住み着き、事もあろうか沢山の悪魔と交わり、悪魔の子を産んだ(リリスが生んだ悪魔の子は『リリン』の総称で呼ばれる)。
悪霊の王であるリリッツはメソポタミアで生まれたものであるが、そこにおいて彼女は幼子を苦しめるとされた。成人した男子を彼女が誘惑するというのは伝説である。ゾハルによれば、アダムは彼女と寝た最初の男である、他方ミドラシュは彼女が彼の最初の妻であったとさえ言っている。ユダヤの伝承において、リリッツは女性の悪霊の中でもっともよく知られたものであるが、彼女だけが唯一のものではない。
(引用:「ユダヤの民話上」ピンハス・サデ―編/秦剛平訳 出典について p.ⅴ)
…と、知ってる人は知ってる!という感じがプンプンしますが、全く知らなかった私は
俺はまだ聖書のことを何も知らないのか…
と、聖書知識へのコンプレックスが爆発しそうになりました。しかし、調べているとどうも「ユダヤ教寄りの伝承で、クリスチャンは知らない人も多い」ようで一安心…
▼あるプロテスタント信徒と教会アカウント
▼カトリック(ナカノヒトは大学で旧約聖書を教えている)
ないですねぇ。あれって確かユダヤ教内での伝承だったかと。
リリスってヘブライ語そのものは、イザヤの34の14に出てくるんですけど、「夜の魔女」ってのがそれです。
— webマガジンAMOR(公式) (@AmorWebmagazin) 2019年1月31日
野の獣はハイエナと出会い、鬼神はその友を呼び、夜の魔女もそこに降りてきて、休み所を得る。
(イザヤ書34章14節)
とのことで、聖書にあるリリスへの言及の箇所も教えてくれました。なんでも聖書に『リリス』と出てくるのはこの箇所のみだそうです。
しかし、やっぱりこの『イザヤ書34章』前後を読んだとして「リリスがアダムの最初の妻」ということは読み取れません。
→イザヤ書(Wikipedia)
→聖書からかっこいい名言を引用したい人が最初に眺めるページ(いつかみ聖書解説)
→60分でわかる旧約聖書「イザヤ書」(ハーベストタイムミニストリーズ)
ましてやアダムとエヴァの話がある創世記までさかのぼって読んでみても『リリス』という存在が読み取れるかといいうと、ナシよりのナシかなぁ、と。
26 神はまた言われた、「われわれのかたちに、われわれにかたどって人を造り、これに海の魚と、空の鳥と、家畜と、地のすべての獣と、地のすべての這うものとを治めさせよう」。
27 神は自分のかたちに人を創造された。すなわち、神のかたちに創造し、男と女とに創造された。
28 神は彼らを祝福して言われた、「生めよ、ふえよ、地に満ちよ、地を従わせよ。また海の魚と、空の鳥と、地に動くすべての生き物とを治めよ」。
29 神はまた言われた、「わたしは全地のおもてにある種をもつすべての草と、種のある実を結ぶすべての木とをあなたがたに与える。これはあなたがたの食物となるであろう。
30 また地のすべての獣、空のすべての鳥、地を這うすべてのもの、すなわち命あるものには、食物としてすべての青草を与える」。そのようになった。
31 神が造ったすべての物を見られたところ、それは、はなはだ良かった。夕となり、また朝となった。第六日である。
第2章
1 こうして天と地と、その万象とが完成した。
2 神は第七日にその作業を終えられた。すなわち、そのすべての作業を終って第七日に休まれた。
3 神はその第七日を祝福して、これを聖別された。神がこの日に、そのすべての創造のわざを終って休まれたからである。
4 これが天地創造の由来である。主なる神が地と天とを造られた時、
5 地にはまだ野の木もなく、また野の草もはえていなかった。主なる神が地に雨を降らせず、また土を耕す人もなかったからである。
6 しかし地から泉がわきあがって土の全面を潤していた。
7 主なる神は土のちりで人を造り、命の息をその鼻に吹きいれられた。そこで人は生きた者となった。
8 主なる神は東のかた、エデンに一つの園を設けて、その造った人をそこに置かれた。
9 また主なる神は、見て美しく、食べるに良いすべての木を土からはえさせ、更に園の中央に命の木と、善悪を知る木とをはえさせられた。
10 また一つの川がエデンから流れ出て園を潤し、そこから分れて四つの川となった。
11 その第一の名はピソンといい、金のあるハビラの全地をめぐるもので、
12 その地の金は良く、またそこはブドラクと、しまめのうとを産した。
13 第二の川の名はギホンといい、クシの全地をめぐるもの。
14 第三の川の名はヒデケルといい、アッスリヤの東を流れるもの。第四の川はユフラテである。
15 主なる神は人を連れて行ってエデンの園に置き、これを耕させ、これを守らせられた。
16 主なる神はその人に命じて言われた、「あなたは園のどの木からでも心のままに取って食べてよろしい。
17 しかし善悪を知る木からは取って食べてはならない。それを取って食べると、きっと死ぬであろう」。
18 また主なる神は言われた、「人がひとりでいるのは良くない。彼のために、ふさわしい助け手を造ろう」。
19 そして主なる神は野のすべての獣と、空のすべての鳥とを土で造り、人のところへ連れてきて、彼がそれにどんな名をつけるかを見られた。人がすべて生き物に与える名は、その名となるのであった。
20 それで人は、すべての家畜と、空の鳥と、野のすべての獣とに名をつけたが、人にはふさわしい助け手が見つからなかった。
21 そこで主なる神は人を深く眠らせ、眠った時に、そのあばら骨の一つを取って、その所を肉でふさがれた。
22 主なる神は人から取ったあばら骨でひとりの女を造り、人のところへ連れてこられた。
23 そのとき、人は言った。「これこそ、ついにわたしの骨の骨、わたしの肉の肉。男から取ったものだから、これを女と名づけよう」。
24 それで人はその父と母を離れて、妻と結び合い、一体となるのである。
25 人とその妻とは、ふたりとも裸であったが、恥ずかしいとは思わなかった。
(創世記1章~2章)
ので、キリスト教徒はリリスについて「なんの見解も持ってない状態」はさもありなん…と思うコトにしました。
聖書ネタだと思ってクリスチャンに振っても、面白い反応は得られないかもね ~
リリスにまつわる伝承や、キリスト教の文脈史
伝承を漁る機会に恵まれつつあるので、言及のある書物見つけたら追加していきます。
(聖書には) 悪魔的な母親的人物像はないように思われる。それは、たぶん後世の伝承によって補われることになると言う意味である。後世の伝承はリリスと言う人物像を作り上げてくれた。それは「イザヤ書」34:14に言及されている多分シュメール起源の夜の怪物である。(彼女は欽定訳聖書では「コノハズク」“screech owl”と呼ばれている。欽定訳聖書の大きな弱点のひとつは合理的翻訳の偏愛である。)リリスはアダムの最初の妻であったと言われていた。それは「創世記」1:27における女の創造に関する祭司的説明と、「創世記」2:4のイヴのアダムの肉体からの想像を語る最も古いヤハウィストの説明とを調和させるためであるというのが理由の一部である。リリスは悪魔あるいは邪悪な霊の母親であったと主張されている。その結果ロマン派の時代には活躍した。ゲーテの『ファウスト』に出てくるし、ジョージ・マクドナルドのロマンスではヒロインである。
(「大いなる体系」ノースロップ・フライ著,伊藤誓訳,p.201)
リリッツーーアッシリアのリリトゥ――は、より手ごわい敵である。それは、本来、風の霊だったが、タルムード時代に悪しきエロチックな夜の霊となり、中世や近世のユダヤの民間伝承では、生まれたばかりの赤ん坊やその母を攻撃する女の悪霊と見なされた。
(引用:「イディッシュの民話」青土社 1997年 ビアトリス・S・ヴァインライヒ 編 /秦剛平 訳 p.377)
リリス(リリッツ)の登場するユダヤ民話「リリッツと草の葉身」(マルティン・ブーバーの記したテキストより)
↑かろうじて見つけてきました
おまけ
ユダヤ教とキリスト教は「旧約聖書」を共有してない問題
まあこのへんあくまで『キリスト教』のガワからの話として展開しているので、ご容赦願いたいです。ユダヤ教とキリスト教の『聖書』の理解については…こちらのnoteなどに飛んでくださったほうが1000倍ためになると思うので投げておきたいと思います。
まず議論の大前提は、「キリスト教とユダヤ教が旧約聖書を共有していない」ことだ。「何をいうか…?!旧約聖書とは、ギリシア語の新約聖書と並ぶ、キリスト教の原典ではないかッッ?」と思う人もあるだろう。しかし、実際には別物だ。
まず、ユダヤ教において「聖書」は、「タナッハ」と呼ばれている。このタナッハは「律法・預言者・諸書」という三部に分けられ、合計24冊の書物を含む。最上の権威である「律法」の下に、「預言者」が来て、次に「諸書」が来る。当然、ギリシア語で含まれた新約聖書は含まれない。
聖書を聖書によって読むこと
創世記の時系列のズレについてキリスト教徒はどう考えるのか
さて、ではそもそもこの「リリス」を生み出した原因である「創世記、時系列がめちゃくやちゃんけ問題」をクリスチャンがどう受け止めているかと言うハナシなのですが…
時系列が問題なんじゃなくて、「何を伝えたいか?」のほう大事だと解釈してる
という感じなのかな、と思います。
→神が問われる―私たちの対話的教義学講座(再)1/4 ルーテル神学校校長石居基夫氏(FEBC)
最初に目次を作って、あとで詳細について書いたカンジ
みたいな感覚で受け止めている、という意見も聞いたことがあります。
我々が「神」と信じる存在はなにせ「全知全能」なので、つまり時間すらもその内側に有するのであり、どのみち人間にはとてもとらえきれないのでムリに理解しようとしない…くらいのスタンスではないでしょうか。
(専門的に研究されている方は別ですよ)
とはいえ、こういうのを聞くと
信じてるヤツらが都合のいいように解釈してるだけだろ。
聖書だって、不都合なところを切り取ってきたんじゃないの?
と感じる方も多いのではないかな、と思います。その気持ちもよくわかります。手っ取り早く確かめる方法が1つだけあったので、別記事でまとめてみました。興味があったらごらんください。
▼リリスの存在を手っ取り早く確かめる方法
「聖書は作り話か」とか「カインとアベルの話、神が悪い」「ユダは本当に裏切り者だったのか」とかの真実を知るには
また、もし『創世記』を読んだことがない方はこれを機にぜひ読んでみてください。
一応自分はプロテスタントなので、「各個人が聖書を読む」ということを推奨する流れに身を置いており、自身はそこに身を置くことの意味はそれなりに感じているのですが、現状では「日本の文化圏の人がいきなり聖書を読むのはそんなにおすすめじゃないかもな…」と思い直しています。
ガチユダヤ学者Vtuberが語る聖書の「テキストの順序と時の順序」
フェミニズムと引き合いに出されることが多い「リリス」だが…
「現代ではリリスは女性解放運動の象徴の一つとなっている。」とWikipedia(2020年11月29日日本時間18:17時点「リリス」頁)にもあるように、リリスはキリスト教のメインストリームから外れている存在であるがゆえに、『家父長制的で男尊女卑のユダヤ・キリスト教文化への反骨』的な文脈で使われることがままある印象です。
しかしまぁ、『ユダヤ・キリスト教は家父長的で男尊女卑』かというと、「少なくともキリスト教に関しては違うんだよ」と熱く(憎しみを込めて)語る方のNOTEがあったのでちょっとご紹介してみます。
エーリッヒ・フロムの『愛と性と母権制』は、その様に個人の成長発達の神話的象徴的表現として創世記を読み解く分かりやすい例だ。はっきり言っておかなければならないが、キリスト教の創造と堕落に描かれる人間観は、人間の成長発達の神話的表現とは全く以て見せないものである。信仰者にとってはそれは神話や象徴などではなく事実なのだ、と言いたい訳ではない。百歩譲って仮に単なるフィクションとして見ても、まるでそういう話として読めないのだ。私見では、我々日本人がキリスト教を見誤り続けているのは、この点での誤解のせいが大きい。
(引用:フェミニストとアンチフェミニスト両方向け、キリスト教の男女観、あるいは進化、保革左右、そしてキリスト教(前篇))
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本邦では左派的な偏見のせいでそう思っている人は非常に少ないと思われるが、女性を主人公とする物語のベースを提供できることは、キリスト教の有意義な特徴の一つである(※1)。
キリスト教信仰を持っていないと自認しつつ、神学書を”多くはないが一般人よりはたくさん読んでいる”こちらの方がこのノートを書かれた動機は「日本では、キリスト教を評するにプロの神学者や牧会者の著作を紐解くという当たり前の道筋がないがしろにされて、キリスト教についてぼんやりした憶測がまことしやかに流通している」という現状に思うところあるようで、日本でひと味違ったキリスト教理解を深めたい方は興味あればどうぞです。(ひと記事30分くらいかかる可能性あります)
まあ、確かに歴史的にはキリスト教は男尊女卑的な文化を推進してきた立場ではあるようです。ただ、昨今では「それってキリスト教の本質じゃないから変えていいやろ」という動きがあると認識します(「フェミニズム神学」とか「クィア神学」とかがソレなんでしょう)
言語的・文化的にキリスト教文化を受け継いでない・受け継ぐ必要がないのがわれわれ現代日本人であると思うので、そのへんストローマン論法にならないように扱いたいな…と思っています。
▼聖書を読んでみたい方は
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超余談:あなたのリリスはどこから?
「リリス」と命名されたキャラクターは、日本生まれのサブカルチャーコンテンツのなかでも非常にたくさんいると思われます。
そういや私が初めて知った『リリス』ってどこだろ…
と考えてみたところ、【地獄先生ぬ~べ~】か
地獄先生ぬーべー 26 (ジャンプコミックス)
【ヴァンパイアセイヴァー】(東まゆみ先生のマンガバージョン)
ヴァンパイアセイヴァー-魂の迷い子- 全5巻完結(ガンガンコミックス) [マーケットプレイス コミックセット]
あたりかなぁと思いました。なつかしいですね。
(【ぬ~べ~】では、リリスと言うキャラクターは出て来ませんが、夢魔の説明で「リリス」について言及されていた記憶が…うっすら…)
みなさんのリリスはどこからでしょう?
▼こんなんもよければ
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