「リリッツと草の葉身」
昔、リリッツ(リリス)に誘惑されたユダヤ人がいた。しかし、彼はひどく痛めつけられたため、助けを求めてツァディク(ㇾべ/ユダヤ正統派の世襲指導者)であるラビ:モルデカイのところを訪問する。
ラビは男がやってくるのを五感で感じ取り、町のすべてのユダヤ人に対して男を家に入れたり寝所を提供したりしないように警告を出す。
男は町に到着したが、自分が夜を過ごす場所もないのを知り、納屋の前庭に積み上げられている干し草の山の上に横になる。
真夜中、リリッツがやってきて「我が愛する人、その干し草から降りてわたしのところに来てください」と言う。しかし、いつもはリリスから寄ってくるのに、距離を摘めないことを不思議に思った男は、リリッツに訊ねると、リリッツは「あの干し草の中にはわたしがかぶれてしまう葉身があるのです」と言う。
男は「その草を取り除くから、種類を教えてくれ」と言ってその草を教えてもらう。そうしてその草を取って自分の首に巻いたので、リリッツに攻撃されずにすみ、一命をとりとめた。
p参考ピンハス・サデ―編/秦剛平訳「ユダヤの民話上」p.136
元のテクスト
このお話は、ブーバーの「ハシッド派の尊師たち」が元のテクストらしいです。
マルティン・ブーバー(ヘブライ語: מרטין בובר, ラテン文字転写;Martin Buber, 1878年2月8日 – 1965年6月13日)は、オーストリア出身のユダヤ系宗教哲学者、社会学者。
経歴
1878年、ウィーンの正統派ユダヤ教徒の家庭に生まれる。イディッシュ語とドイツ語が交わされる中で生活しながら、1892年に父方の実家があるレンベルク(当時オーストリア領、現ウクライナ領リヴィウ)に転居。イマニュエル・カント、セーレン・キェルケゴール、フリードリヒ・ニーチェなどに親しむうち哲学に興味を示し、1896年に再度ウィーンへ戻って哲学、美術史、歴史などの勉強に勤しんだ。
この「ユダヤの民話集」は、ピンハス・サデ―という一匹狼気質の小説家・詩人、エッセイスト、批評家の採録したものらしいです。ヒレル・ハルキン曰く、彼の特徴は、
『詩編の作者のように「生ける神を渇望する」過激に宗教的な人格で、かつ、どんな正統主義からもユダヤ教の監修からも距離を置いている』(同書「はじめに」p.Ⅱより)
とのことで、既存の民話集がアシュケナジーのものに寄っていたのに対し、北アフリカ・トルコ・エジプト・レバント地方・コーカサス地方・イェーメン・イラク・イランさらには遠隔のアフガニスタンなどの未公刊の口伝の資料を使用している、非常に幅広い民話集であるらしいです。
個人的にとても面白かったので、早く「ユダヤの民話 下」も読みたい…!
ユダヤ民話に関しては、「あらすじ」だけでよいのでしたら下のチャンネル『おかしなおはなし』コーナーでちょっとずつ紹介していけたらいいなと思っています(牛歩の更新ですが)。興味があったらチャンネル登録したりコメントで希望などお聞かせ下さると幸いです。