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【更新】天草四郎伝説の沼に足つっこみはじめた(2月更新)

「姫への求婚。失敗すれば斬首」という難題に挑んだ知恵のある若者のトルコ民話『金のやぎ』

↓こちらのユダヤ民話と「似ているけど結末がちがう」のが面白いと思ったのでご紹介します。

(ユダヤ民族文化からの興味~ですみません。でもやっぱり限度ある人間でしかないので、自分の興味からしか動けないなぁ、と思います。人間の認知として、何かの世界観なしに解釈はしえず、その有限性を引き受けながらやっていくしかないのだなぁと思います)

トルコ民話「金のやぎ」AT854

株式会社ぎょうせい 小澤俊夫編「シルクロードの民話」アラビア・トルコ篇pp.200‐208より要約

ずっと昔。パーディシャー(※)に大変美しい1人の娘がいた。娘には大勢の求婚者がいたが、教育係は誰もふさわしくないとして誰とも結婚させなかった。 そして教育係は父親であるパーディシャーに 「姫さまのために地下に宮殿を建て、宮殿から庭に通じる階段の上に鉄のふたをして、蓋の上に池を造ります。そして、やってきた求婚者に3日間姫をさがさせ、見つけることができなければ3日目の夕方に頭を切り落とすのです。」と進言する。

パーディシャーはこの考えが気に入り、ただちに地下の宮殿を40日で建てさせる。姫はこの宮殿に入る。 そこから毎日求婚者がやってきて姫を探すが、だれも見つけることが出来ず、3日目には首を刎ねられた。 教育係は切り落とした首で塔を建てた。

※パーディシャー…昔のイスラム王朝、特にオスマン帝国の君主の称号。「守護王」。一般に「王さま」の意味。

別の国のパーディシャーには3人の息子がおり、長男・次男がこの美しいパーディシャーの噂を聞きつけてこの難題に挑もうとする。 しかし、長男も次男もあえなく失敗、頭を落とされる。

ふたりの息子を失った父親のパーディシャーと母親であるその妻は悲しむ。 末息子も同じように挑戦するというので止めるが、末息子は静止を振り切って挑戦する。

街にやってきた末息子は、まず金細工師の店に行き、自分が入れるくらいの大きさの金のやぎ製作を依頼する。 末息子はその中に潜り込み、それを姫宛の贈り物としてパーディシャーの宮殿に運び込んでもらうようにする。

そのやぎは姫のいる地下の宮殿に運び込まれ、姫はそれを気に入って部屋のすみに置いておく。 若者は、やぎの目から姫をみて、その美しさに驚く。 翌日、空腹を覚えた末息子は、真夜中にこっそりやぎから抜け出して、姫のために運ばれた料理を食べてまたやぎに戻る。 姫は自分の食事がなくなったことを不思議に思うようになり、真夜中に犯人を確かめようとして、末息子は姫に見つかってしまう。 しかし、若者が自分の身分を名乗ると、姫は若者が気に入ったので、そのままやぎの中に住まわせて夜に共に過ごすことにした。

ある晩、この生活は続けられないとして、姫と若者は次なる方法を考える。 考えた末、若者は姫に、やぎの足を折って、どうしても治してほしい」と頼むように言い、そのようにする。 そして金細工師に持ち替えられた若者は、やぎをからっぽのまま宮殿に戻す。 それから改めて若者は宮殿に向かい、パーディシャーに姫と結婚したい旨を伝え、例の如く難題に挑戦させられる。 若者は宮殿の場所を知っているので、池の水を外に出させて、姫のいる地下の宮殿の扉を出現させてみせた。 焦った教育係は、姫に召使いの服を着せて、宮殿中の召使いを集めてその中に姫を隠し、そのなかから姫を探しあてるように言う。 若者は姫を知っていたので、簡単に見つけ出し、姫の腕をとってパーディシャーのもとに行く。

パーディシャーは若者に祝いの言葉を言い、大勢の若者の血を流した罪で、教育係の首を刎ねるように言いつけ、教育係の首は塔のてっぺんに置かれることになった。 若者は、国から父親と母親を連れてきて、40日40夜結婚式を行い、2人は死ぬまで幸せに暮らした。

補足など

話者不詳。求婚に失敗した者の頭を切り落とす、というのですから一見残酷に思われます。けれどもメルヒェンとか昔話は、求婚という社会的モティーフを、極端化することによって自らのなかに受け容れるのです。この性質は、ヨーロッパでも日本でも同じです。そのうえ、頭を切り落とすと言いながら、その場面をリアルには語っていません。「切り落とす」ということばだけで語ってしまいます。この語り方を、「昔話は出来事の中身を抜いて語る」ということができます。

同書「解説」小澤俊夫 p.360

まだまだ数は少ないですが、トルコ民話はけっこうすんなり受け入れられるというか、すなおに「面白い」と感じるものが多かったです。日本民話とかよりもずっと「いい話だなー」と感じるおはなしが多い、という感想です。

現在ザックリ持っている所感として、

・日本民話→筋が通ったり通らなかったりしていて嗜虐的で怖い
・ユダヤ民話→筋が通っていて苛烈で怖い
・トルコ民話→筋が通ったり通らなかったりしているが優しくて楽しい

みたいな感覚を抱いています。(小並感)