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「ソロモンの審判」「大岡裁き」と似ている昔話8選‐ユダヤ民話/アラブ民話/チベット民話etc…からあらすじ紹介

あおい
あおい

「ソロモンの審判」に似ている伝承が日本の「大岡裁き」以外にもたくさんあるということを感じていただけたら幸いです…とコラムライターが言っています

たくみ
たくみ

手始めに、「ソロモンの審判」と「大岡裁き」のあらすじを紹介するよ

「ソロモンの審判」あらすじ

同じ家に住んでいる2人の遊女には、それぞれ男の子の子どもがいた。しかし、2人だけが家にいる間に、一人の女が自分の子どもを誤って殺してしまい、もう一人の遊女の子を自分の子どもと取り代えたというのである。

女たちは、今生きている男の子が自分の子であるとソロモン王の前で言い合ってゆずらなかった。そこでソロモンは「剣をここに持って来なさい」と言って、「生きている子を二つに切り分け、半分をこちらに、もう半分をそちらに与えよ」

と言った。

すると一人の女は「この子を殺すくらいなら、あの女にあの子供をお与えください。」と懇願する。

もう一人の女は「それを私のものにも、あなたのものにもしにで、断ち切ってください」と言う。

そうしてソロモンは宣告を下した。「生きている子をはじめのほうの女に与えよ。決してその子を殺してはならない。彼女がその子の母親である。」と。

(参考:「旧約聖書」列王記第一 3章16~28節)

「大岡裁き」あらすじ

大岡裁きとは、「大岡政談」という創作物の中において、大岡越前が行ったとされる裁判の総称である。

ある所に子供がいました。

子供の母親は一人ですが、どういうわけなのか、母親を主張する女子が二人いました。

双方共に「わたしこそがこの子の母親よ」と、頑として引かない様子です。

二人の争いはとうとう収まらず、大岡越前の奉行所でついに白黒付ける事になりました。

大岡越前は二人にこう提案しました

『その子の腕を一本ずつ持ち、それを引っ張り合いなさい。

 勝った方を母親と認めよう。』

その言葉に従い、二人の母親は子供を引っ張り合いました。

当然ながら引っ張られた子供はただではすみません。たまらず「痛い、痛い!」と叫びました。

すると、その声を聞いて哀れに思ったのか、片方の母親が手を離してしまいます。

引っ張り合いは終わり、引っ張りきった方の母親は子供を嬉々として連れて行こうとします。

が、大岡越前はこれを制止します。

『ちょっとまて、その子は手を離したこちらの母親のものだ』

引っ張りきった方の母親は納得がいきません。なんせ、自分は引っ張り合いに勝っているのですから。

当然、こちらの親は食い下がりました。しかし大岡越前は

『わたしは「引き寄せた方が勝ち」などとは言っていない。

 それに、本当の親なら、子が痛いと叫んでいる行為をどうして続けられようか』

と言いました。

大岡越前は、母の持つ愛情をしっかり見切ったのでした。

これにて一件落着。

引用:pixiv百科辞典より

似ている民間説話たちあらすじ

「ソロモンの裁きエピソード0」(ユダヤ民話)

※このタイトルはコラムライターによる便宜的なモノです

秦剛平「ユダヤ民話集」上に、『ソロモンの審判エピソード0』と呼べそうな民話があった。

ある女性が隣人に貨幣を盗まれ、その訴えを、まだ少年のソロモンが冷静な状況判断で審判をくだす話だった。しかし、実のところ少々得心しなかった。(頓智感がなかった)

そして、ところによってこの民話は「ソロモン」のところが「ダビデ」としても語られるらしい。

また詳細確認して、あらすじにできたら追記してみたい。

「ソロモン王の名裁き」(絵画アリ)

「双頭の男」(ユダヤ民話)

①アスモダイ、ソロモンの前で地下から双頭の男を引き出す。
あるとき、悪霊の王であるアスモダイがイスラエルの王ソロモンのもとにやってきて、頭が二つある4つ目の男を大地の中から引き出して見せる。

②双頭の男は地上の価値観(ソロモンたちと同じ価値観)を有しており、地上で暮らすこととなる。
ソロモン王は双頭の男に種族を尋ねると、男は

「私は人間で、カインの末裔」であり、「テヴェルの地に住んでいる」と答えた。

アスモダイは男を元の世界へ戻せなかったので、

男は地上で暮らすこととなった。

③双頭の男の遺産分配について話し合われる。双頭は1人か2人か?
男は妻を娶り、7人の子をもうけた。うち6人は母親似で、双頭のひとりは父親似だった。

男はまじめに働き、非常にお金持ちになり、亡くなるとき、土地や屋敷を息子たちに残した。

財産を7等分しよう、と言った時、双頭の息子は「ここには2人いる。8等分の二つがわたしのものだ」と言った。

結局彼らは、ソロモンの判断を仰ぎにやってした。

事情を聞いたソロモンは、答えに窮し、夜、天幕の中で祈った。

すると「朝になればもとめたものがかなえられているだろう」という神の声がした。

④ソロモンの裁き――「双頭は一人」
翌日、ソロモンはサンへドリンの前でこう宣言する。

「もしお前の二つのあたまのうち一方が他方が感じていることを知っているならおまえは一人の人格であるが、もしそうでなければおまえは二人の人格である」

そう言うと彼は熱い湯と酢を持ってこさせ、その二つの頭にそれぞれにかわるがわるに注いだ。

「陛下、陛下、何をなさるんですか!わたしを殺すのですか!」

その二つのアタマは悲鳴をあげて、自らが1人であることを叫んだ。

ソロモンは兄弟たちを家に帰した。そして彼らは遺産を7等分した。

(参考:ピンハス・サデー編 秦剛平訳「ユダヤの民話 上」(青土社)『双頭の男』/小沢俊夫編「世界の民話」イスラエル より)

「忘恩は世のならい」(イスラエルで記録された民話)

これは広く採集されている話である。「蛇が、助けた男に『恩は仇で返すのが世の習わしってモンだぜ』と主張して男を食べようとする」という話である。

ほかの話ではその裁きを「通りがかった動物たちに尋ねていく」ことが多いが、イスラエルで採集されたお話ではソロモンに尋ねにゆき、創世記の有名な箇所が復習できるような構成になっている。

①男が蛇を助ける

1人の男がミルクのツボを持って歩いているとき、渇きを訴える蛇に出くわす。

蛇はミルクを飲ませてくれたら、お返しに宝のありかを教えてやると言った。

蛇はミルクをもう飲み干すと、男を宝のありかまで案内する。

②蛇は「恩をあだで返すのが世の習い」だと言って男を殺そうとする

しかし、男が宝を持ち帰ろうとすると、蛇は跳ね上がって男の首に巻き付いて「お前を殺すのだ。お前は俺の宝を盗んだ」と主張する。

男は「そんなら、ソロモン王の法廷へ行こう」と言って、彼らはソロモン王の前へ出た。
③ジャッジメントの時

(蛇は男の首に巻き付いたまま)

ソロモン王が蛇に望みを尋ねると、蛇は

「この男を殺したい。お前は彼の首筋を噛むであろう」と書いてあるではないか」(創世記3の15)と主張する。

ソロモンは「首から降りよ。ここは法廷である。噛んではならぬ」と言うので、蛇は身を解いて、男の首から降りた。

そして再び言い分を言わせた。

ソロモンは男に向かい「ところがお前には、神がーほむべきかなー命じておられる。『彼はお前の頭を砕くであろう(創世記3の15)』と」

男はにわかに蛇に跳びかかり、蛇の頭を踏み潰した。

(参考:小沢俊夫編 「世界の民話」イスラエル)

※この資料は「国会図書館デジタルアーカイブ」でも閲覧できます。

「スライマーンと小さな梟」(モロッコで記録されたアラブの民話)

①スライマーン(ソロモン)、妻のひとりに『鳥の羽根でできた家具』を要求される

あらゆる動物を統べていた、スライマーン・ビン・ダウード…ダビデの息子ソロモンのある妻は、スライマーンに

「私に鳥の羽で美しい絨毯と柔らかなベッドを作ってくださいな」と要求してきました。

(この時代は、動物たちはまだ喋ることができました)

なので、スライマーンさすべての鳥たちを招集しました。

②鳥たちが集まったが、梟が遅刻してきたので理由を尋ねる

色とりどりの鳥たちが集まったところで、欠けている鳥はいないか確認したところ、梟がまだやってきていないことがわかりました。

やがてやってきたフクロウに、スライマーンは遅れた理由を尋ねました。

③梟のたとえ話

するとフクロウは言いました。

「ご主人さま、私が遅れましたのはーー

ーー夜と昼と、石と粘土と、男と女とを比べていたからでございます」

それを聞いたスライマーンは

「昼と夜、どっちが多かったかな?」

と尋ねました。フクロウは

「夜よりも昼のほうが多いということが分かりましてございます。というのも、満月の夜は昼間のように明るいからでございます」と言いました。

フクロウがこういうので、スライマーンは続けて「粘土と石」「男と女」どちらが多いか尋ねました。

フクロウは「粘土よりも石のほうが多いのでございます。といいますのも、固まった粘土は石のように堅いからでございます」

「女のほうが男よりもずっと多いのでございます。といいますのも、妻の望みに唯々諾々と従う男が男と申せましょうか?いいえ、そのとき男は女になっているのでございます。」

と答えました。

梟の言い分を咀嚼して飲み込み、妻の要求を退けたソロモン

それを聞いたスライマーンは言いました。

「では、妻の要求のためにすべての鳥たちから羽をむしり取ろうとしているこのワシは、女に数え上げられるのか?」

「仰せの通りでございます」梟は言いました。

「と申しますのも、あなたは奥方さまの忠告をお聞きにはならねばなりませんが、その言いなりになってはならないからでございます」

それを聞いたスライマーンは、集めた鳥たちを解散させ、奥方に言いました。

「ここでお前の言いなりになったら、わしは遠からずお前にこの顎髭もむしり取られてしまうことだろう」

(むすび)神はあなたがたに、そして我々にも幸せを下し給う。

(参考:イネア・ブシュナク編 , 久保 儀明訳「アラブの民話」青土社p.340〜341)

「ソロモン王とケシラ」(モロッコで記録されたユダヤ民話)

①結婚の代わりに、ワシの骨でできた宮殿を要求されるソロモン王

昔々、ソロモン王はケシラという名前の美しい王女と結婚を望みました。

ケシラ王女は

「私のために全ての部分がワシの骨でできている宮殿を建てるならば結婚しましょう」

ソロモンに交換条件を出してきましたので、

ソロモン王はそのために

世界中の鷲を殺そうとしました。

それを知った鷲たちは

梟に窮状を訴えたので、

梟はソロモン王を説得しやって来ました。

②梟の説得~たとえばなし~

梟はソロモン王に向かって

「昔、こんな女がありました」

と譬え話をはじめました。

「夫をとても愛している妻が、夫を亡くしました。

ある日、妻は墓地に出かけて彼の死を悼んでいると、

その日、盲目の男が王室の金庫から金を盗んで捕まりました。

しかし、処刑にむかう道中で、

その盗人は逃げ出してしまいます。

そして執事長は泥棒を探しに、

寡婦のいる墓場にまでやってきて、

そこにいた寡婦に事情を話して捜索をしました。

すると彼女は

『何をご心配なさっているのですか?』

と言いました。

『ここには私が最近葬った夫が眠っております。夫は晩年には目が見えなくなりました。さあ、夫を掘り起こし、逃げ出した盗人の代わりに彼を遺体を王さまの足下に投げ捨てたらいかがでしょう?』」

「ですから閣下、この話から、女の話がどんなに価値あるものかお分かりになると思います」

と、梟は言いました。

③ソロモンの意趣返し~たとえばなし~

それを聞いたソロモンは、梟に言いました。

「わたしもまた聞いてもらいたい話があるのだ」

として、こんな喩えを話し出しました。

「昔むかし、あるところに、互いに愛し合っている夫婦がいた。

ある日、夫が、都で売れば高値で売れそうな品を手に入れ、妻に後押しされながら都に向かった。

しかし、夫は都に着くや、王に捕まり投獄されてしまう。妻は夫の帰りを待ち侘びていたが、ある日夫の投獄の知らせを受けて、夫を解放してもらうために晴れ着を来て王宮へ向かった。

王と執事長は、妻であるその女性が王たちのところに住むという条件で、夫を解放した。

翌日、王たちが女性の家に迎えにくるという話になり、女はその日は家に戻ることを許可された。

家に戻ると、女は床の絨毯をすべて取り外し、一面を真っ黒に塗りたくった。

そして翌日やってきた王と執事長は、部屋には入るや滑って転び、床にべったりくっついてしまった。

そこで女は部屋の鍵を閉めて言った。

『もしここから自由になりたかったら、あなたの監獄に入っている囚人全員を自由にしてくれなくちゃ』

王は最初は渋っていたが、女の要求を飲んだ。

王は誓約の文書を書き、次の日には囚人はすべて釈放され、彼女の夫も自由の身となった」

それから、ソロモン王はこう締めくくりました。

④梟の言い分を退け、おそらくワシの骨で宮殿を作ったソロモン王

「だからね、梟くん。女の言葉や献身がどんなに価値のあるものであるかわかるだろう」

そして、ソロモンはケシラを自分の妻としました。

おしまい。

(参考:ピンハス・サデー編 秦剛平訳「ユダヤの民話 上」(青土社)pp.109-110

「王様の名裁判」(チベットの民話)

ソロモンは登場しないが、小澤俊夫が「同じ類型のお話」として紹介していたのであらすじを紹介。

①ゼパという王がいた

昔むかし、ゼパ(美男)という名前の王がいた。

ゼパは領国を信仰の掟にのっとって治めていた。

②ユグパチャンという貧しい男がいて、少々の手落ちから膨大な弁償を求められる×5回

そのころ、国にユグパチャン(杖を持つ男)という名の男がいて、彼はとても貧しく、衣食に困っていた。

(②-a)ユグパチャンは、ある家持ちから牛を一頭借り、一日使って家持ちの家に戻したが、主人は食事中だったので直接返すことができなかったので、牛を置いていった。しかしその間に牛が逃げてしまい、牛は内庭からいなくなってしまった。

家持ちの男はユグパチャンが牛を逃がしたと思って問い詰めた。ユグパチャンは確かに返したので水掛け論になり、

そこで、『王のもとへ行ってどちらが正しいか判断してもらおう』という話になった。

(②-b)ふたりが王のところへ行く道中、一等の雌馬が逃げているところに遭遇した。雌馬の持ち主とおぼしき男が「馬を追い返してくれ」と叫ぶので、ユグパチャンが馬に向かって石を投げると、馬は骨折してしまい、ユグパチャンは男から馬の弁償を強いられる。そうして、この男とも王のもとで判断してもらおうという話になった。

(②-c)大事になったと感じたユグパチャンは、一度逃亡を試みて塀をとびこえる。すると、向こう側にいた織り工の上に落ちて、彼を殺してしまった。織り工の妻はユグパチャンを捕まえて亭主を返すよう要求する。どうしようもないので、これもまた王のところに談判しにいくことになった。

(②-d)深い河のほとりで、木こりが手斧を口にくわえて渡ってきたところ、ユグパチャンが水深をたずねる。すると木こりは答えようとして口を開いて手斧を落としてしまう。木こりはユグパチャンに向かって仕事道具の弁償を要求したので、これもまた王に談判しに行くことになった。

(②-e)ユグパチャンは疲れ、居酒屋に入った。しかし、この居酒屋の女店員は産んだばかりの男の子をに何枚もの着物をかけて椅子においていて、ユグパチャンは知らずにそのうえに腰かけてしまう。男の子は死に、女はユグパチャンを捕まえて息子を返すよう要求されたので、またこれも王に判断を仰ぎに行くことになった。

③さまざまな動物や人間たちから「王のところへ行ったら、ついでに尋ねてほしいことがある」と言われる×3

(③-a)一同がさらに道を進んでいくと、シャコタカという木の上にからすが止まっており、どこへ向かっているのか尋ねられる。ユグパチャンは事情を説明し、王のところへ向かっていると告げる。すると烏は、ユグパチャンに言伝を頼む

「おいらば別の木にとまると声色が悪くなるんだが、この木にとまると不思議にきれいな声になる。こいつはどういうわけですか」ってな。

(③-b)さらに行くと、一匹の蛇がユグパチャンをみて、先ほどのからすのように王に言伝を頼まれる「あたしはね、巣穴から這い出す時には気持ちいいのに、また中へもぐりこむときには苦しくってしょうがない。これはどうしたことですか」

(③-c)さらに進んで行くと、今度は若い女が「私、両親の家におりますと、しゅうとの家が恋しくなるので、でもしゅうとの家におりますと両親の家がなつかしくてたまらないのです。これはどうしてでしょう」

④ゼパ王の前で、審判を仰ぐ

ようやくゼパ王の前に出てきた一同。ゼパ王は、ひとつずつ事情を尋ね、ユグパチャンと訴える人がそれぞれ事情を説明する

(②-aへの審判)牛の件の家持ちには「ユグパチャンは牛をつれもどしたとき、このことを告げなかったかどにより、舌を切り取ることとする。また家持ちはもどってきた牛を見たのに、つないでおかなかったかどにより片目をえぐりぬくことととする」と告げる。

家持ちはこれを聞いて「それならいっそユグパチャンの勝訴にしてくだすったほうがマシですわい」と言った。

(②-bへの審判)次は雌馬の件で、「馬の主人は『その馬をこっちへ追ってくれ』と叫んだかどにより、舌を切り取ることとする。ユグパチャンは石を投げたかどによりその手を切り落とすこととする」と言った、

すると男は「それならばいっそユグパチャンの勝訴にしてくだすった方がマシです」と言った。

(②-ⅽへの審判)次に木こりについては「木こりは、肩にかつがねばならぬものを口にくわえて運んでいたかどにより、二枚の門歯を欠くこととする。ユグパチャンは水は深いかと聞いたかどにより、舌を切り取ることとする」

すると木こりも「ユグパチャンを勝訴にしてくだすったほうがマシです」と言った。

(②-eへの審判)次に、酒瓜の女には「ユグパチャン、そなたは彼女の夫となり、子をひとりつぅってやるtがよい」と言った。「いっそユグパチャンの勝訴にしてくだすったほうがましです」

(②-dへの審判)最後に訴えたのは織り工の女房、詳細を聞くと「立ってこの者を夫にしなさい」と言った。「それならいっそユグパチャンの勝訴にしてくだすった方がマシでございます」

こうして、王は訴訟をひとつひとつ調停した。

⑤ゼパ王の裁きが巧みであることの例がはさまる

ところで、まだその他にも争っている二人の女がいた。王は「そなたちはめいめいその子を片手でつかまえ、おのが方へ引き寄せるのじゃ。子をわがものにした方が、自分の子として連れ帰るがよい」と言った。一人は情け容赦なく子を引っ張り、もうひとりは子どもがかわいいので強くひっぱれなかった。それを見て、王は穏やかな引っ張り方をした方の女を息子として連れ帰らせた。

ユグパチャン、言伝を伝える

(③-bへの回答)「巣穴から這い出すときは体がほてっておらず空腹だからだ。しかし外へ出ると鳥たちから攻撃されて体にけがをして怒りで体がふくれあがる。今後、食べるのはほどほdにし、怒らないようにするなら、巣穴に潜るのも這い出るときと同様気持ちよくなるだろう」

(③-ⅽへの回答)「お前は両親の家にひとりの男友だちを持っているのだろう。それゆえしゅうとの家にいると男友だちが恋しいあまり両親の家に焦がれる。しかし家にると夫がなつかしくてしゅうとの家にもどりたくなるのだ。他方にしっかりいづけばお前はこの苦しみからまぬがれる」

(③-aへの回答)「その木の下には黄金があるため、お前の声は良く響くのだ」

そして、その黄金はユグパチャンのものにしてよいと言った。

おしまい。

(小沢俊夫編「世界の民話」チベット)

※この資料は「国会図書館デジタルコレクション」で閲覧できます。

めちゃくちゃ長い。「もうエエやろ…………」と思いながら書いた。しかし、この物語の主眼はあくまで「ゼパ王の審判のすごさ(信仰による裁きというのはこういうことだよ、という意見?)」なのだというのがわかる。

「娘と二人の恋人」(ビルマの民話)

①父親に過保護に守られている娘がいた。

むかし、あるところに金持ちがいて、たいへん美しい娘をひとり持っていた。
父親は、娘に男を近づけないように、金の塔に住まわせ、見張りを大勢つけていた。

②二人の男が娘に惚れてしまう。

あるとき、二人の若者が外国の大学に勉強に行こうとしてこの金の塔のそばを通りかかり、美しい娘を窓からみかけ、たちまち恋に落ちてしまった。

ふたりは三年のあいだたゆまず勉強し(空飛ぶ術)、その甲斐あってひとりは呪文博士になり、もうひとりは魔術博士になった。

ふたりは歓びいさんで故郷へ帰ってきた。

③それぞれの男が、それぞれ娘のもとに通うようになる。

ある、月の明るい晩に、呪文修士は呪文を使って塔にいる娘の部屋に飛び込んでいき、自分の胸のうちを娘に打ち明けた。

次の晩、今度は魔術修士が魔術を使って塔の上の娘の部屋に飛び込んでいき、娘に自分の想いを告げた。

こうして、ふたりはそれぞれ娘のところに通うようになり、これが数か月のあいだ続いた。運のいいことに、二人の男は一度も顔を合わせることがなかった。

④娘の妊娠が発覚するが、父親がどちらかわからない。

ところが、そのうち、娘のおなかに赤ちゃんができたことに気づいた。

娘はしかたなく父親に自分の妊娠を告げて、恋人が二人いることも打ち明けた。

父親は驚いたが、それなら急いで子どもの父であるほうと結婚するように言った。

しかし、娘もどちらが父親かわからなかった。

事情を知った男たちも、それぞれが「自分が父親だ」と言ってゆずらなかった。

⑤「法律に明るい王女」の審判

そこで、金持ちはこの件を法律に明るい王女のところへ訴えることにした。

王女の審判はこうだった。

「この状況では、どちらが子どもの父親であるか決定することは不可能です。

ですから、娘さんに二人のうちひとりを選ばせなさい。そして娘さんの選んだ者を、子どもの父親と決めればいいでしょう。」

(「世界のことわざ:民族の知恵」矢崎源九郎編著 ,1965年,社会思想社,pp188-189(コマ番号96))

※この資料は「国会図書館デジタルコレクション」で閲覧できます。

これもまたソロモンは登場しないが、ソロモンの民話と同じモチーフを彷彿とさせたので紹介。

最初「娘に父親である男を選ばせて、子どもは選ばなかったほうの男にあたえなさい」と言っているのかと思ったが、よく読むとそんなことは言っておらず、シンプルに「夫も子どもの娘の好きな方に選ばせなさい」と言っていた。

なので頓智感は少ない。

「子引き裁判」(インドの民話)

①子どもを魔女にさらわれる

子どもを抱いた女が、「聖者の池」と呼ばれる蓮池に顔を洗いに来た際、水場に子どもを(自分の衣にくるんで)おいておいた。

そこにやってきた魔女が、女の姿に化けて「お乳をのませてあげてもいいこと?」と聞いてきたので、

母親は承諾した。しかし、隙を見て、魔女は子供をさらってしまった。

気づいた母親は魔女をおいかけ、子どもを返すよう要求するが、魔女はしらばっくれて「この子はあたしの子ですよ」と言い張りだした。

②聖者が「どちらが母親か」を決めることとなる

言い争ううちに、ふたりは賢い聖者の住む家の前を通りかかり、さわぎを聞いた聖者が表に出てきて事情を知る。

聖者は、魔女のほうを見破ることができたので(目が血走っていたのを見逃さなかった)、何食わぬ顔で、

「お前たちは私の裁きに従うかね」

と確認し、二人が承諾したので聖者が判断をくだすことになった。

聖者は床の上に一本のすじをひいて、それを中にして子供をねかせ、魔女には子どもの両手を握らせ、母親には両足をにぎらせ「二人でひっぱりっこをしなさい。勝った方が子どもをとるのだ」

と言い渡した。

二人が子どもの引っ張り合いをはじめると、子どもが泣き始めたので、母親は手を放して泣き出した。

③聖者、聴衆に問う

そこで聖者は人々に向かって「子どもをいとしいと思うのは、母親の心だろうか?それとも母親でないものの心だろうか?」と問い。人々は「それは母親の心です」と答え、そのまま聴衆に「どちらがこの子の母親と思うか?」と尋ねた。

聴衆は、手を離したほうの女が母親であると言った。

そして聖者は「では、子どもを盗んだのはどちらの女であろうか?」と続けて問い、聴衆が「それはわかりません」と答えると

④聖者、魔女を裁く

「では話して聞かせよう。この女は実は魔女なのだ。この女はこの子を食べようと思ってさらってきたのだ」と言った。

なぜそれがわかったのか聴衆から問われると、

「この女はまばたきをしないし、目が真っ赤に血走っている。そのうえこの女には影がないし、おそれを知らず、あわれみの心もない。それでわかったのだ」

と答えた。

⑤聖者、魔女にいましめを与え、許す

そして魔女にむかって問いただし、あらためて己が魔女であることや、子どもを食べようとしたことを認めさせ、しかった。

「あき盲目のばかもめ。お前は前世にわるいことをしたからこそ、魔女などに生まれてきたのではないか。それなのにまだこりずにわるいことをやめないのか。まったくお前は先の見えぬばかものだ」

そして五つのいましめをさずけ、ゆるしてやった。

子どもの母親は、聖者の裁きをほめたたえ、「だんなさま、どうぞ長生きをなさいますように」と言って子どもと一緒に帰った。

(参考:「インドの民話」昭和33年 宝文館 田中於菟弥 編, pp.15-16)

※この資料は「国会図書館デジタルコレクション」で閲覧できます。

なぜ「ソロモンの審判」と「大岡裁き」は似ているのか、について

そもそも似ている民話が世界じゅうにある。

日本だけじゃない。

では「なぜ世界には似ている民間伝承が存在しているのか?」と思う人もいるかもしれない。

これは民間説話研究者たちが常に頭を悩ませている問題でもある…と素人ながらに認識する。素人が手を出さないほうがいいトピックだ私は位置づけている。

研究者の仮説はいくつかあるので、説話研究書を3冊くらい読んだらつかむことができる案件だと思う。私はこのトピックには興味がないのでここでは詳細を引かない。

参考文献

たとえば、ぎょうせいの『世界の民話』シリーズには、『「ソロモンの審判」や「大岡裁き」に似ています』と解説されているお話が1話は入っている。見比べてみても面白いかと思う。

(なおぎょうせいの世界の民話』シリーズは国立国会図書館でデジタル収録されているので、登録すればインターネットを通して無料で読むことができる。)