このウェブサイトでは、過去に【鋼の錬金術師】に関するコラムをいくつか書いたのですが、その関連で
「イシュヴァール ユダヤ」という検索キーワードで何か知りたい人が一定数いる
ことがわかりました。なるほど、たしかにイシュマエルの響きや、民族浄化レベルの虐殺に遭ったという点、ある宗教観によって強く団結している民族…といった点で似ている気がします(※)。
(※)イスラエル建国前のパレスチナ地域におけるユダヤ人の共同体のことをイシューブ/イシュヴ(ヘブライ語: ישוב)と呼ぶらしいです。「イシュヴァール」と響きが似てますね。
あっ、このコラムは基本的にネタバレしてるから閲覧は自己責任でお願いします!
▼【鋼の錬金術師】関連記事
コラム:「鋼の錬金術師」エドとアルのその後は“宗教者”説を考察する
「イシュヴァールの民はユダヤ民族がモデル」みたいな話は、作者の荒川弘先生が表明しているというワケでもなさそうですが、
賢者の石を作るには何人もの生きた人間が犠牲になって錬金の材料となります。 素材にされたのは差別によりアメストリス国家が大量殺戮をしたイシュヴァールの民です。
公式では発表されていませんが、アメストリスはドイツ、イシュヴァールはユダヤがモデルとされています。
(ハガレンから知る宗教差別)
コミック版『鋼の錬金術師』は、民族浄化を思わせる「イシュバールの虐殺」が大きな要素になっている。今のイスラエルと中東の関係や、ユーゴスラビア紛争を暗喩するかのような展開もある。その意味ではファンタジーでありながら、相当にエッジのあるメタファーだ。ハリー・ポッターや指輪の物語とは根底から違う。
(森達也 「メメント」 より)
…みたいな感じで、読み手の考察により成り立っているモデル像、という感じです。
具体的にどういう点が似ているのか…みたいな話を検証してコラムにしようかな?と思っていたのですが、この辺りはあまりにも込み入っているし、
下手にまとめるより、これをきっかけに各人に学んでもらったほうが明らかにいい
だろう、と思ったので、本日は、読んでよかった入門書籍を紹介いたします。こういうトピックをきっかけに、私たちの世界で起きていることについて考えを深めたい、という気持ちを抱く方もいるようですし。
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目次
「わかるユダヤ学」手島勲矢著 が入門書としてはいいんじゃないだろうか…
こちらの書籍は、ユダヤ・イスラエル民族が持っている世界観の解説をしながら、歴史的な背景も学べるようになっています。ビジュアル図解などもあって助かりました…。
2002年出版…「ちょっと古いのでは」と思われるかもしれませんが、読書メーターな度の感想などを見ていてもそんな問題はなさそう(そんなに大きく動く分野ではないですものね。)
いわゆる『旧約聖書』とキリスト教徒たちが呼んでいるものと、ユダヤ民族の『タナッハ』との一言では言い表せない関係などもつかめるので、
聖書って何なんだろう、いつかは読んでみないといけないとは思ってるんだけど…
というコンプレックスの解消にも一役買うと思います。ユダヤの民のアレコレというのは(一部の日ユ道祖論者を除いて)日本人があんまり興味を示さない分野のようで、キリスト教徒と名乗る層にも認識や態度のふり幅が大きい…という印象がありますので、まずは書籍で基礎知識を入れてみるのが硬い分野、のような気がします。
著者の手島勲矢(てしま いざや)先生は、
手島勲矢専門は文献学・思想史。ヘブライ語聖書(タナッハ)およびユダヤ教(信仰と理性)。現在はスピノザのヘブライ語文法翻訳に従事。文字と数字と自然の関係。一神教の政治思想(ユダヤ法)
https://researchmap.jp/read0067670
と言う感じで、ツヨツヨ学者さんなのでそのへんはご安心くだいますようお願いします
この書籍についての感想をちょっとだけ引用してみます。
歴史の記述は、普通は退屈でなかなか読み進めないんですが、この本は、テーマごとにポイントを絞った簡潔な説明と、わかり易くまとめてある図など興味を引く細かい工夫がされているので、最後まで一気に読めました。こんなに様々な表情を持つユダヤの世界を紹介している本は初めてだと思います。
旧約の昔からイスラエス国家までのユダヤ人の歴史を述べた後、最近のユダヤ人文学者やイスラエルの人々の宗教儀礼、ユダヤ学について簡単な説明が付属している。見開き2~3ページに一つの項目をまとめてあり、また図版も多くて読みやすい。旅行ガイドブックみたいで親しみやすい一冊。
ユダヤに関する本は何冊か読んだけど、確かにこれはわかりやすい。けれどもやっぱり難しい。だって、ユダヤ人が民族なのか、ユダヤ教を信仰している人のことなのか、それすらも立場によって意見が違うのだ。
少しユダヤ「寄り」も感じたけど、まえがきにある通り、全体的に客観的記述を努めているのを感じられた。「ユダヤ」の入門書の中で、かなり良いかも。中古で買いたい。
ということで、あなたが「18世紀東欧のハシディズムについての説明が抜けてることに不満」を覚える場合はこの書籍は向いてないっぽいのですが、「そういう問題じゃない」場合の入門書としては良いのではないでしょうか。
私はこれを最寄りの図書館で見つけたのですが、「ユダヤ教」コーナーではなくて「国際政治」みたいなコーナーに配架されていたので、長らく存在に気づきませんでした。あなたの最寄りの図書館で探す際も、「ユダヤ教」と「ユダヤ学」はちょっと違う場所に分けられているかもしれません。
他にももっと新しい出版年の「ユダヤ事情入門書」的な本はあったのですが、感想を眺めるかぎり総合力が一番強そうなのはこの書籍かな…と思ってこれを紹介してみました。
まあ、ぶっちゃけこんなどこの馬の骨とも知れないウェブサイトの情報を頼るより、お住まいの自治体の図書館レファレンスサービスとかに頼ってみて、そこでおススメされた書籍を3~4冊(できれば5~6冊)ガーっと読むのが一番かと思います。みなさまの前途に祝福がありますように。
ユダヤ民話に、イシュヴァ―ル殲滅戦のきっかけと似た話みつけた
「イディッシュの民話」に、イシュヴァ―ル殲滅戦のきっかけになった出来事と似たお話があったので紹介してみます。
後にこの戦いのきっかけとなった軍将校がイシュヴァールの少女を殺害したという事件自体がエンヴィーが軍将校に化けて及んだ犯行であり、それによって起こった騒乱(イシュヴァール出身者粛清も含め)をエンヴィーと同じホムンクルスのブラッドレイが鎮めるという、もはやこの内乱そのものがいわば黒幕側の仕組んだマッチポンプのようなものだったことが判明している。
ピクシブ百科事典(2024.5.13 13時閲覧)
※黄マーカーは当コラム製作者による
「『子どもの殺害をした』という触れ込みで虐殺がはじまったが、それはマッチポンプだった…」というところですね。
▼以下、あらすじ
昔々のアムステルダムは、遠くの都に住んでいる王に属していて、直接の統治は副王によって行われていた。
この街には慕われているラビがいたが、彼は老衰で亡くなってしまい、遺言でその後継に「レブ・カシメン」という人物を指名した。ユダヤ人たちはレブ・カシメンなる人物を探し、ある村でようやくを見つけることができた。
しかしレブ・カシメンはなかなかアムステルダムのラビになってくれることを承諾しなかった。
使いの者たちの熱心な説得の末、カシメンはどうにかアムステルダムに来てもらえることにはなり、ユダヤ人たちは、レブ・カシメンをパレードで歓迎した。しかし、ユダヤ人たちの期待とはうらはらにレブ・カシメンはなんの聖句も聞かせてくれなかった。失望したユダヤ人たちは、彼を自分たちのラビから罷免した。
さて、この副王はたいそうな浪費家で、アムステルダムに住むユダヤ人たちから年貢を取り立てては遊びやギャンブルに使っていた。
ある日、副王は、ユダヤ人の徴税人であるレブ・アズリエルに申し出て、税を横領しようとしたが、レブ・アズリエルがそれをことわったので激怒し、「ハマンがお前たちに対してしたように、私おお前たちを苦しめてやるぞ」と言って、ある陰謀を企てる。
過ぎ越し祭りの直前、副王のと彼が味方につけた主席祭司は、ユダヤ人ではない子どもを殺して、その血の入った瓶をレブ・アズリエルの家の前に投げ捨て「ユダヤ人どもが子供を殺したぞ」と騒ぎたてた。
そして、ユダヤ人たちは国家に対して謀反を企てたとして、
レブ・アズリエルの処刑と、その日にユダヤ人たちを好きなようにしてよいというおふれを出せるよう王に手紙で申請し、それの承諾を得た。
これに戦慄したユダヤ人たちは、自分たちが罷免したあのレブ・カシメンに相談してみることにした。使いの人間がレブ・カシメンの家にいくと、彼は熱心に祈っていた。
そして、「みなにヨム・キプールのように、我々の断食に先立つ食事をとらせなさい」と言い、ユダヤ人たちが集まったシナゴーグで説教台に立ち、コルニドレを口にした。カシメンが祈るとい、壁ががたがたと音をたてて点が揺れ、雷鳴がとどろいた。
それからレブ・カシメンは、国王のもとに出かけた。(ーカシメンは数日かかる道のりを瞬時に移動することができた―)
国王は、うたたねをしている際、ある夢をみた。目覚めたときそこにいたレブ・カシメンの姿をみとめると、先ほど夢にでてきた人物に似ていたことに気づき、夢の解き明かしをたずねてみた。
カシメンは、「偉大なる国王陛下、誰かがあなたさまを病気にかからせようとしているのはあきらかです」と言い、副王が陛下を殺そうとしている企てをしているので捜索するように申し出、そして今回のレブ・アズリエルの処刑は冤罪によるものであることなどを説明した。
アムステルダムでは、いよいよレブ・アズリエルの処刑の時刻になった。副王は「改宗すれば命を助けてやる」と言ったが、レブ・アズリエルは承諾しなかった。そして絞首刑が行われようとした瞬間、国王の騎兵たちがやってきた、
そして副王が国王殺害の計画を企てていた証拠を提示した。
――そうして、レブ・アズリエルのために用意された処刑台では、副王が吊るされることになった。
ユダヤ人たちは隠れ家からでてきて、歓びあった。
レブ・カシメンは知らない間に家族とともに姿を消していた。ユダヤ人たちは残念がった。
それから後、国王はユダヤ人たちに貢納を免除され、いたるところで繁栄した。すべてのものが創造主に感謝した。
ビアトリス・S・ヴァインライヒ 著,秦剛平 訳「イディッシュの民話」より要約)
(「イディッシュの民話」より要約
この民話については、あくまで『民話』として語られていることとして考えていただければいいのかなと思います。補足には、この事件に似た事件は史実としては確認できなかった旨が書かれていました。詳細知りたい方は書籍からひも解いていただければと思います。
余談
YouTubeの予測変換で「イザヤ・ブラッドレイ」って出てきたんやけど、なんやねん
2022年7月、この記事を書くにあたって色々調べていだのですが、Youtubeで「イザヤ・」まで入力したら、イザヤ・ブラッドレイという予測変換が出てきて笑って(※)しまいました…。
劇場版とか小説版とかにそういうオリジナルキャラクターでも出してきたんかな?それともまったく 関係ない作品にそういうキャラクターがいるとか?
とも思ったのですが、やっぱりそういうワケでもなさそう。
※私がこの記事で紹介している本の著者が「イザヤ」という名前であり、それは【鋼の錬金術師】には関係ない文脈からのひっぱってきたことから私は「笑って」しまった、という話です。(2022年7月時点の日本の文化では、「ブラッドレイ」という名はほぼほぼキング・ブラッドレイを指します。)
ちょっと調べてみたのですが、どうも「イザイア・ブラッドリー」というキャラクターがマーベルにいるようで、その日本語的発音を文字にしようとした際に生まれた表記みたいですね。
ただ、2022年7月時点では「イザヤ・ブラッドレイ」の表記はあんまり浸透してなさそうです。
世界の不思議に想いを馳せてみる…
いちばん可哀想なのはイシュバールの民だな。
(鋼の錬金術師15巻 イシュバールの殲滅戦 360度の方針転換)
ただし、信仰までも徹底的に否定されてしまったのは、ちと理論武装が足りなかったと言わざるを得ない。長期間生き延びてきた一神教はその辺りも見捨てられない程度には説明できている。
民族と宗教を一体化させすぎて甘くなったのか――それを言うとユダヤ教は何物なんだと思えてくる。
イシュバールの民とユダヤ民族を重ねつつ、その違いに想いを馳せるブログ発見。
民族宗教であるように見えて、そうとも言い切れず、木っ端みじんになりそうで、ならずに今日まで至るユダヤ教および、その楕円の中心にいるユダヤの民たち。
その不思議さは「セカイのフシギ」とも呼べそうな、人類史におけるミステリなわけですが…まあそのへんは置いといて。
イシュバールの民とイスラエル民族は具体的にどういう共通点があると読めるのか、どういった点が違うのか…
もし「具体的に検証してみた」という方がいればまとめてくださればウェブサイトでもYouTubeでもニコニコ動画でもこのコラムからも発リンクいたしますので、よろしければご連絡ください。
(そんな奇特な方がいらっしゃるとも思いませんが…)
ガチユダヤ学者のVtuber紹介
なんと、Vtuberにもガチユダヤ学者の方がいるので紹介しておきます。聖書系Vtuber「羊たちの夕べ」メンバーの棚葉香蓮(たなはかれん)さん。
棚葉香蓮
ガチユダヤ学者
「羊たちの夕べ」チャンネルにたまに
やってくる
香蓮さんの配信についていくには基礎知識が要る
スピノザフリーク
聖書系VtuberS「羊たちの夕べ」においては四天王最強の実力者です。
質問に答えてくれる回とかも開催される可能性あるみたいなので、興味のある人はチャンネル登録しておくとよきかも。
「羊たちの夕べ」で語れることは初心者向けではないのでついていけないかもしれませんが、香蓮さんは足袋田クミさんを通して質問にも答えてくれるかもしれない…ので、ご参考までに!