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【更新】天草四郎伝説の沼に足つっこみはじめた(2月更新)

フランス版『遠野物語』こと「ブルターニュ幻想民話集」から異類婚姻譚要素のある民話を2つ紹介~天使と悪魔との婚姻譚~

「ブルターニュ幻想民話集」を読みました。

いわゆる「アイリス粉とおしろいのにおいがする」と形容される(※)ような『フランス民話』たちとは違う、どっしりとして”宗教的”な質感が味わえるブルターニュ地方の民間伝承集です。

(※)岩波文庫「フランス民話集」に集録されていた編訳者の表現で見た気がします。記憶があいまいです。

ひとむかしかふたむかし前のブルターニュ地方の習俗をかいまみることができるお話が充実しています。当コラムライターは「異類婚姻譚」と呼ばれるシロモノに執着を抱いているので、この中から2つあらすじを要約して紹介してみたいと思いました。

悪魔との異類婚姻譚と呼べそうなお話「悪魔と結婚した娘」

トレゼリーに住むマルト・リシャールは

美しい娘だったが、

片足が不自由なせいで、

少し年上の2人からバカにされていた。

毎週日曜日には妹を読誦ミサに送り、

自分たちはおしゃれをして

歌ミサに行ったり、

晩課に行ったり、

夜には恋人を連れてきたりしていた。

ある日、

マルトはとうとう姉たちに反抗することを決めた。

姉たちがパルドン祭り(※)に行くために

おしゃれに励んでいる間に、

自身もこっそりと衣服を身に付け、

ハリエニシダの花束を背に隠し、

姉たちの後を追ったのであった。

(※1)パルドン祭り…フランス、ブルターニュの典型的な巡礼の一つ。庶民のカトリック信仰に根付く伝統的な行事である。ケルト人のキリスト教化がキリスト教聖職者によって行われた時代に遡るという、非常に古い起源を持ち、アイルランドやニューヨークで行われるセント・パトリック・デーのパレードと比較される。(Wikipedia


(※2)ハリエニシダ…マメ科マメ亜科に分類される植物の一種。西ヨーロッパ・イタリア原産であるが、広く移入され、日本にも外来種として定着している。


姉たちは、

マルトの登場に驚いて、

マルトが自分たちについて

パルドン祭りに来ることを

断固拒絶した。

マルトが

「それなら自分1人で行く」

と宣言すると、

姉たちは

「せいぜいあんたにお似合いの素敵な騎士を見つけることね」

と吐き捨てたので、

「たとえ悪魔であろうと、

お二人のように、

男と2人で家に戻って見せるわ」

と言い返した。

そして、別々にパルドン祭りへ向かった。

トレギエへの道と

ロスペズへの道が交差するところで、

マルトは1人の優雅な若者と出会った。

若者は貴族のような立ちで、

立派な馬に乗っていた。

そしてマルトに声をかけてきて、

2人して祭りに向かうことになった。

マルトが立派な若者と一緒に現れたので、

姉たちは大いに悔しがった。

パルドン祭りの人混みに

初めて揉まれたマルトは

嬉しくて仕方がなかった。

若者と礼拝堂を取り囲む木々の下でダンスをし、

習慣通りマルトのポケットを

くるみとアーモンドでいっぱいにし、

帰りは家まで送っていくことを約束した。

帰り道で若者はマルトに結婚を申し込んできた。

そして、

「結婚後は金を使いたいように使ったり

使用人たちに用事を言いつけたりして、

自分は何もせず、

くつろいでいれば良い」と言った。

ただし、その代わりとして

「結婚後ミサへは行かないこと」

を約束させた。

マルトは「自分は信心屋ではないし、これまで日曜ごとに読誦ミサに行かされていてうんざりだったので構わない」と言って、若者と婚約した。 

父は大喜びした。

2週間後に結婚式が行われた。新郎はたった1人でやってきたが、目を奪うような、まばゆいばかりの衣装で現れた。

教会の玄関を通る時、若者はマルトが差し出した聖水を素通りし、十字も切らず教会に入った。司祭が式を開始したが、聖体拝領の際に振り替えると、新郎の顔色が変わっていることに気づいた。

司祭は急いでミサを終わらせ、マルトを聖具室に呼び寄せ、マルトに夫となった人物の正体を知っているのかと問い詰めた。

マルトが「ミサ行くことを禁じただけですわ」と言うと、司祭は、「あの男は間違いなく悪魔だ」と言い、「奴の永遠の餌食にならぬ手立ては1つだけだ。」と言って次のような助言を行った。

「どんな命令を下されようと何をされようと従ってはならない。例えば、もしテーブルに向かっている時『食べなさい、マルト…。飲みなさい、マルト…。』などと言われても、何もせずに、ただ「イエス様、マリア様、私お救いくださいと唱えるのだ。絶対に譲ってはならない」

と。マルトはそれを重々承諾して、夫の元へ向かった。

マルトが乗った馬は火を吹いて疾走し、

地獄へあっという間に着いた。

そこには、あらゆる年齢のあらゆる形のあらゆる大きさの悪魔がいた。

マルトには嫌なことが何もなく、

財産は全て思いのままだった。

住まいは花が咲き乱れる美しい牧場に面し、小川が流れていた。

しかし、

奇妙なことに小川の水は動かず、

花々は何の匂いもなかった。

何ヶ月かたち、マルトは身ごもって出産した。

夫は子供を大切に育てるようにマルトに言ったが、

マルトは何も答えず、

子供に視線さえ向けなかった。

マルトが子供を全く見ず

「イエス様、マリア様、私をお救いください」

とつぶやくだけなので、悪魔はついに腹を立て、マルトを元の家に戻すなどと言って脅した。

しかしマルトは相変わらず「イエス様、マリア様、私を救いください」と繰り返すだけだった。

そんなことがしばらく続いたので、

悪魔はとうとう怒り、「考える時間を3分だけ与えてやる。それでもお前が変わらなければ、悪魔12人に命じて、1人ずつ順番にお前を裸にして、馬に縛り付けハリエニシダの荒野で引きずり回す」と脅した。

マルトはやはり祈りしか繰り返さなかったので、

すぐに12人の大きな悪魔が現れ、悪魔が脅した通りの責め苦を受けた。

ハリエニシダの針は

マルトの肉をボロボロに引きちぎり。、

12回目には、マルトは虫の息となった。

ついに、悪魔はマルトの体に松脂を塗りたくり、

火の中に投げ込むように命じた。そして

「哀れな奴、助言したものに感謝するが良い!」

と叫んだ。

次の日曜日、

トレゼニーの司祭が

独唱ミサの前に告解室に入ると、

マルトがひざまずいていた。

「感謝を述べに参りました。

 司祭様のおかげで私は助かりました。

 どうか私の両親にお伝えください。

 この世での生き恥を許してくださるのは司祭様だけなのです」

と言うと、マルトの姿は消えせ声も聞こえなくなった。

天国に登っていったに違いありません。

話し手、マリー=サント、トゥ-ルーザン,ポールブラン

上記紹介書籍pp.316-322より再話

天使との異類婚姻譚と呼べそうなお話「足の不自由な少年と天使の義兄」

昔むかしあるところに。

「ルイジク」という名前の15歳の少年と、

その3歳年上の姉「マリー」という少女がいた。

2人は大変美しい姉弟だったが、

ルイジクは片足が不自由だった。

マリーは美しい上に

聖女のようにしとやかで

敬虔だったので、

次から次へと求婚者が現れた。

しかし、マリーは求婚を

すべて断るので、

見かねた父親が催促すると、

次のように答えた。

「本に描かれていた美しい天使を見なかったら、

 金持ちのカミュ息子かそれとも

 他の誰かを婿にしていたでしょうに。

 とにかく今は無理よ」


(マリーの敬虔さは次のように表現された。→家事の合間の少ない時間を神父様から借りた指入りの起投書を読んで過ごしていた。夜になると、糸紡ぎの女が歌を歌うように紡ぎ糸を回しながら歌を歌ったが、それも流行歌ではなく、天国の聖母や聖人や天使を歌った敬虔な讃美歌ばかりだった。)

ある日、その地方では

見たことないような

真っ白い衣服を身に着けた男が現れ、

マリーに求婚してきた。

その男は、

いままで姉の求婚者の

欠点をみつけては

文句をつけていた

ルイジクの目にも叶うような男だった。

マリーはこの男の求婚を承諾し、

次の週には結婚式が行われ、

婿はマリーと共に家で過ごた。

明朝、マリーの夫は夜明けとともに起き、出かけて行った。

ルイジクは義兄となった男の奇妙な外出を見届けていた。

その後も、毎日、義兄が出かけて夜まで帰らないので、

父親も次第に不安がりはじめた。

しかし、婿が家に来て以来、

何事もうまくいっているし、

何よりもマリー自身が幸せそうなので

ルイジクは心配はしなかった。

ただ、義兄が昼間

どこに行って何をしているのかが

気になったので、

姉に尋ねてみることにした。

すると、マリーも知らなかったので、

ルイジクは義兄の後をつけてみることにした。

明朝、ルイジクは義兄の後をつけた。

するとほどなく、自分たちの領地では

見たことのない道を歩いていることに気づいた。

そんなことを考えていると、

義兄がいきなり振り向いて

「私についてようと言うのか、小僧。

 こうなったら、最後までついてこなければならないぞ。

 もう二度と引き返せないぞ。」と脅しのようなことを言ってきた。

ルイジクは「はい、わかりました」と答え、2人は黙って歩いた。

少し歩いていくと、

岩がむき出しの広大な荒野に着いた。

道の左側の畑には草がたくさん生えていたが、

その草を食べている牛は、

哀れなほど痩せていた。

右側の畑は反対に、

土地は痩せていたが、

太ってつやつやとした牛でいっぱいだった。

さらに遠くには、

鉄の鎖で繋がれ、

互いに食っている犬の群れがいた。

次に、

水でいっぱいの

巨大な貯水地にやってきた。

義兄が頭から

髪の毛を1本むしって水の上に置くと、

それが貯水地を渡る橋になった。

ルイジクも同じことをして無事に渡れた。

ついに、

風にうねって

巨大な炎の波をあげている

火の海にやってきた。

義兄はその中に入ったので、

ルイジクも後について行った。

その海の奥には、

見たこともないくらい壮麗な城が立っており、

義兄は門まで続く階段を上り、

鍵の穴を通って城の中に入り込んだ。

ルイジクは真似をしようとしたが、

今度ばかりはダメだったので、

入り口前に座って待っていた。

しかし、待っている間は退屈ではなかった。

中から聞こえてくる

えもいわれぬ音楽に魅せられ、

周辺を飛んでいる

羽の色の変わる鳥に目を奪われていたら、

退屈を覚えることはなかった。

戻ってきた義兄に

「待っているあいだ退屈したか」

と尋ねられたが、

ルイジクは否定し、

こんなに早く戻ってくるとは思っていなかったことを伝えた。

すると義兄は「ここに来て、実際には100年経っている」と言う。

「お前は十分に休んだのだ。

 お前はが旅の間で見たものを今から説明しよう」と言って

今まで見てきたものが何であったかを説明した。

草のない畑にいた太った牛は、わずかなもので黙々と大地に生きる貧者たち。

草の生えた畑に行った痩せた牛は、いくら財産があっても満足することのない金持ちたち。

鎖で繋がれた犬は、

同胞の後ろで吠えて噛み付くことしかしない陰険な者たち。

貯水地は地獄の井戸。

炎の海は煉獄。

城は天国で、

そして義兄は天使の1人だと言う。

「神様がお前の姉と結婚させたのだ。生娘だったからだ」と言う。

天使は扉を大きく開いて、ルイジクを招き

「お前はこれから我々と一緒に過ごすのだ」

と言った。ルイジクは承諾したが、

「でも僕の父は?僕の姉は?」と尋ねた。

「入れ。2人がお前を待っている。悔い改めを終わらせるために、お前をこの入り口に残したのだ。それが終わった。今、2人に会うことが許されたのだ」

天使はこう言うと、この足の不自由な少年を天国へ連れて行った。

『私たちが天国へ行く時にも、神様のご加護がありますよう。』

(話し手、ルイーズ・ル・ベック。スカエール)

上記紹介書籍pp.336-331より再話

雑な感想~訳者:見目誠 氏のあとがきを添えて~

訳者は縁あってブルターニュとかかわりをもって二十年以上になる。はじめてその地を訪れたとき、訳者がさまざまな面で心底驚いた記憶はいまだに鮮明である。ブルターニュ人(ブルトン人)の感性はおよそ西欧人とは思えぬくらい湿性で、ましてや、ラテン系の「フランス人」とは大いに異なる。ケルト民族である以上当然んのことである。宗教的に篤く、むしろ東洋人に通ずる面を持つ。

訳者あとがきp.345より

「ブルターニュ」といえば、筆者は『ガレット』や『クイニーアマン』といった、「日本でもなじみ深いフランス菓子の発祥の地」という雑なイメージしか持っていなかったので、「日本人に通ずる、湿性の民族性」という形容詞が当てはまる地域というのがなんとも以外でした。(歴史にも地理にも疎くて、本当にお恥ずかしい

「足の不自由な弟と天使の義兄」のお話は、日本の『三輪山神婚譚』や『蛇婿入り:苧環型』を彷彿とさせる要素が満載で、テンションがあがりました。

マリーの「天使の絵画を見てしまったから、現実の男との結婚は考えられない」という、(かなり既視感のある)こじらせ方にはちょっとクスリとしてしまいましたが、願いが叶ったのは何よりです。

そして、こちらの書籍は「フランス版:遠野物語」の異名を持っているということで、遠野物語に想いを馳せてながら作った当チーム謹製の雑な動画も一応ご紹介させてください…。

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