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【更新】天草四郎伝説の沼に足つっこみはじめた(2月更新)

シンデレラの男性版は日本以外にもありまぁす!「少年版サンドリヨン/灰坊太郎/へエブラ」類話あらすじ4選

「神話研究の最先端」という書籍を読んでいたら、

既存の説
既存の説

「少年版シンデレラ/サンドリヨン」と呼ぶべき説話が日本(沖縄が中心?)にある。男性版シンデレラは、西欧からアジアに伝播する過程において主人公の性が変わって、娘→少年になったようだ

フィリップ・ヴァルテル
フィリップ・ヴァルテル

…という論があるが、本当にそうだろうか?「少年版シンデレラ/サンドリヨン」と呼ぶべき類話は、西欧に昔から記録されている

みたいな展開の論文があった。(フィリップ・ヴァルテル「へエブラと西欧の男性版シンデレラ」pp.300-309)

…待ってくれ。そう思って私は一回本を閉じた。

まず第一に「男性版シンデレラの説話がある」こと自体、さほど有名ではないと思う。試しにGoogle検索してみたが、一般的には取りざたされていないようにしか見えなかった。

(私自身は、最近民間説話を漁るのが趣味になったその過程で「灰坊太郎」としてこの説話が取り扱われている背景をうっすら知っていたが、うっすらである)

さらにその先行研究を覆そうとしている…だと?

こちとらシンデレラのモチーフの歌をバーチャル歌手が「Heyタクシー、ちょっと宇宙まで」とか歌ってる世界線に生きているのに

(※後世に読まれることを想定して補足しておくと、2024年も宇宙旅行が一般的というワケではない。ここで言う「バーチャル歌手」というのも、3Dモデルで同時的に動くアバターをまとった人間による歌唱)を行うタイプの歌手であり、中身がAIというわけではない。)

宇宙に行くどころかこの世界の謎が気になる…。

ということでこんがらがったこの話、まだインターネットにない話をインターネットの海に投げていく営みを愛する私が、少し背伸びして、類話をちょこっと紹介してみたい。

需要があるとは思っていないが、くだんのバーチャル歌手の歌に「自由に踊ったモン勝ち」というくだりがあったので、勇気づけられて筆をとってみる。


こんがらがってもしょうがない
ガラスシューズで踊るTonight

……

今夜に明日などない

ならば自由に踊ったモン勝ち、でしょ?

「ビビデバ」作詞・作曲・編曲:ツミキ / 歌:星街すいせい/2024年3月23日リリース

前提

既存に「西欧における男性版シンデレラ」として語られていた説話の内容は、「シンデレラ」とは似ておらず、「日本などにおける男性版シンデレラ」の説話内容を見た時、別の型として整理されていた説話があり、それは中世から語られていたものだったと考えられる…という話が展開されている。(フィリップ・ヴァルテルp.300,など)

あおい
あおい

けっきょく、「男性版シンデレラ」は昔から日本ほかアジアにも西欧にもあったってコト?

たくみ
たくみ

説話研究の中では大きく取り扱われてこなかったって話…かな?

ラビ―ちゃん
ラビ―ちゃん

とはいえ「世界中にある」とは現状は言えないカンジかな?世界は日本と西欧だけじゃないし~。人間のコトはよくわかんないけど(小松菜モシャモシャ)

日本の少年版シンデレラというか男性版サンドリヨンというか灰坊太郎というかへエブラというか

※ひろゆき氏が細君を紹介する際に「僕の彼女と言うか、妻というか、細君というか」と表現することのオマージュ。

日本の「男性版シンデレラ(サンドリヨン)」的説話が記録されている地域、アジアの他の国(ATU130)

日本(岡山,沖永良部島,奄美などの南島、九州、四国、中国地方各県、新潟、東北5県)、韓国

へエブラ(日本・沖縄)あらすじ

「へエ=灰」 「ブラ=少年・なまけもの・自立してないもの 」(フィリップ・ヴァルテルp.302)

①継母に毒殺されそうになる少年
むかし、継母とくらしている継子がいた。継母には実の息子もいたので、その子を跡継ぎにしようとしていた。

なので、継母はある日、継子を亡き者にしてしまおうと画策し、彼の食べるおにぎりに毒を仕込んだ。

継子は毒入りおにぎりを食べようとしたが、一羽の烏がやてきておにぎりを持ちさってしまう。

そして、鳥は継子の見る前で地に落ちる。しかし、稲田に生えていたヒルムシという草をついばむことで復活した。

それを見ていた少年は自分が毒殺されそうになったことに気づいた。(烏は、少年の亡き母親だった。)

②家を出て、金持ちに馬係として雇われる少年

少年はおにぎりについて継母にお礼を言ったが、命の危機を感じたので家を出る決心をした。
家を出た少年は、ある金持ちのところで馬係として雇われた。

少年はそこで抜群の技量を示し、それまで誰一人手なづけることができなかった馬も手なづけた。

金持ちの主人は、少年の才能に着目し、暴れ馬を少年にやり、山のずっとむこうのもっと勢力のある男のところへ行くように言ってやった。

③「へエブラ」と呼ばれるようになる

少年はその新しい主人のところで雇われたが、かまどのそばで眠ることとなったので、彼の顔は煤や煙でまっくろになってしまい「へエブラ」(灰まみれ)と呼ばれるようになった。

④競馬が開催され、そこで勝者となるへエブラ

彼の持っていた暴れ馬は実は神の化身で、夜になってみんなが寝静まるとへエブラは馬に乗って夜の空を駆け巡っていた。朝になると彼らは地上に戻って、少年はかまどのそばに戻る生活を繰り返していた。

やがて競馬が開催され、あたりの乗りてたちがこぞって参加した。

しかし、一人の仮面をかぶった騎手が空から馬に乗ってやってきて、この競馬の勝者となっていった。勝者は競馬が終わると姿を消した。

⑤長者の娘がへエブラに求婚。

長者の娘は、両親に向かって「金のまりを投げた男と結婚したい」と告げた。

あたりの男がこぞって名乗りを上げてきたが、娘は誰にも毬を投げなかった。

最後にへエブラが呼ばれ、立派に着飾った男たちのあいだでためらっていたが、彼を見たとたん長者の娘はへエブラにまりを投げた。

二人は結婚し、末永く幸せに暮らした。

⑥継母のその後

継母が物乞いしにきて、立派な長者がかつて自分が毒殺しようとした継子であることに気づいた。

へエブラは継母に、「あの毒入りのおにぎりが力のもとになる」と話し、それを信じた母親は実の息子におにぎりを食べさせた。息子は死に、継母は泣き伏した。

(参考:フィリップ・ヴァルテル「へエブラと西欧の男性版シンデレラ」p.301)

灰坊太郎(日本・岡山)あらすじ

①継母に殺されそうになる少年

ある長者が後妻をもらうが、後妻は継子である少年を憎んでいた。ある日、後妻は病気のふりをして「継子の肝を野ばねば治らない」と言い、継子を殺すように夫(長者)に頼む。長者はやむなく息子を山へ連れて行って殺そうとするが、犬がじゃまをしてくるので計画は断念する。犬の肝を取って、息子を山へ置いて帰っていった。

②少年は亡き母親の助言で長者の家に落ち延びる

山にとりのこされた少年は、夜、どこからともない人の声を聞き、それは「おまえを産んだ母親じゃ」と名乗った。そして、困ったときには笛を吹き、扇をあおいでほしいものを出せ」「朝になったら小鳥の後をつけ、よい道へ出よ」と言って消えた。少年は助言に従い、ある長者の家に雇われ、灰太郎と呼ばれるようになった。

③祭りで立派な侍姿となる灰太郎

秋祭りがきて、家中が見物に出かけると、灰太郎は笛と扇の力を使って名馬に乗り、りっぱな侍姿となって、お宮へ出かける。

④長者の娘に求愛される灰太郎

侍姿の灰太郎をみかけた長者の娘は、恋の病にかかる、占い人に占ってもらうと、「娘が盃を差し出す人が、婿となる人だ」というので30人もためしてみるが、誰を前にしても長者の娘は盃を差し出そうとしない。最後に、侍姿の灰太郎があらわれると、娘は盃を差し出し、めでたく灰太郎は長者の婿となった。

(参考:「ガイドブック日本の民話」p.170)

西欧の少年版シンデレラというか男性版サンドリヨンというか

フィリップ・ヴァルテル氏が「男性版シンデレラ(サンドリヨン)」として主張する国際話型分類530番が記録された国

ドイツ、フィンランド、スウェーデン、エストニア、リヴォニア、リチュアニア、ノルウェー、デンマーク、アイルランド、フランス、オランダ、ベルギー、ルーマニア、ハンガリー、チェコ、スロヴェキア、セルビア、クロアティア、ポーランド、ロシア、アルバニア、トルコ、カフカス、インド など

サンドリヨン(フランス・アルザス)

①3人兄弟の末っ子、牧場の見張り番を押し付けられる

三人兄弟の父が、上二人の兄弟に夜中の家の牧場にやってきて、「牧草を踏みにじるものを捕まえる」ように言う。

上の息子はサンドリヨンにその仕事をやらせる。

②サンドリヨンは馬から「どんな願いもかなえてくれる毛」を授かる

サンドリヨンが見ていると、夜中に赤毛の馬がやってきて牧草をふみにじる。サンドリヨンは馬をなぐりつけるが、馬は見逃してもらう代わりに一本の赤毛をくれる。

翌日も二人目の息子がサンドリヨンに番をさせる。

今度は鹿毛の馬がやってくる。この馬もサンドリヨンに毛をくれる。

三晩目は白馬がくる。

これらの馬の毛はどんな願いもかなえてくれる力をもっている。

③競馬で勝利した者に王女を与えるというお触れが出る

王様が競馬を催し、勝者に王女を与えるというお触れを出す。

競馬は3日続く。

2日ともサンドリヨンは馬の毛の力で勝利をおさめるが、さいごに姿をくらます。

しかし王女はサンドリヨンの耳のうしろのしるしで彼だと気づく。

(参考:フィリップ・ヴァルテル「へエブラと西欧の男性版シンデレラ」p.304)

※名前はわからず(コーカサス)

①末っ子、馬から願いが叶うたてがみをもらう

3人兄弟の末っ子が、父親の最期の願いをきいて、父の墓のうえで三晩番をする。

最初に現れたのは青い馬で、これを抑え込んだ少年はたてがみを1本もらう。何か困ったことがあれば、このたてがみを燃やせば、馬が助けにやってくる。2晩目は赤い馬で、3晩目は黒い馬である。

②馬の鬣を燃やして王女と婚姻する

しばらくして西の国の王が「馬に乗って塔を飛び越した者に王女を与える」というお触れをだす。

少年は馬のたてがみを燃やして跳躍に成功する。

③残りの鬣で、兄弟たちに王女の姉妹と結婚できるようにする
2日目と3日目は王女の姉妹を彼の兄弟たちのために獲得する。


(参考:フィリップ・ヴァルテル「へエブラと西欧の男性版シンデレラ」p.305)

アラブの少年版シンデレラというか男性版サンドリヨンというか(途中)

※フィリップ・ヴァルテル氏は取り上げていなかったが、民話集を読んでいて見つけた該当っぽいもののあらすじを紹介できるといいのかなぁ…と思っている

(途中)クレイユーン(アラブ・パレスティナ)

クレイユーン…小さな禿げ頭の意味

「アラブの民話」イネア・ブシュナク編 p.183~

①継母に殺されそうになる王子、ジンの馬の助言でことなきを得る
あるところにスルタンがいて、2人のお妃がいた。最初の妃には1人の息子、ふたり目のお妃には2人の息子がいた。最初の妃がなくなると、残ったお妃は自分の二人の息子のために、はじめの妃の息子の殺害計画を練る。

最初の妃の息子である王子は、ジンが育てた子馬をもらってかわいがっていた。(この子馬は電よりも早く駆けることができた)

ある日、この馬が泣いているので王子が事情を尋ねると、お妃が今作っているガチョウの煮込み料理の最後の一羽には毒が入っていることを教えてきた。
これを知った少年王子は、食事時にころあいを見計らって自分のガチョウと他のひとつを取り代えた。次の瞬間、一人の息子が即死した。
 実は、この毒殺を吹聴したのは産婆で、産婆は次に「戸口の上り段をほんの少し入ったところに深い落とし穴を掘る」ように入れ知恵する。しかし、またも少年王子はジンからもらった馬によってこの計画を知る。そうして自分は難をまぬがれ、それを知らずに続いた腹違いの弟が落とし穴に落ちて死ぬ。

②馬と共に国を出た王子、馬に魔法の毛を与えられる

 あの王子の馬が計画の邪魔をしていることに気づいた妃は、馬の殺害計画を考える。そして次に産婆が提案したのは、お妃が病気のふりをして、「子馬の肉を食べれば回復する」とスルタンに訴えかける、というものだった。これを聞いたスルタンは、息子を呼び寄せて事情を説明するが、王子は「お父上、あれは、私にとって可愛い馬ですが、お妃さまの命には代えられません。けれども、別れる前に一度だけあいつに乗らせてください」と言って、許可をもらう。

そして馬に乗った王子はそのまま、宮殿を飛び出して王国を出て、遥かかなたの海辺までやってきた。

馬は「私はお暇をいただかなくてはなりません」と言って、自分の7本の毛を困ったときに燃やすように言って去っていた。

③禿げ頭に扮し、オレンジ畑の見張りとして生き始める王子王女に見初められる

王子は、暮らしのためにオレンジ畑の番人の仕事を見つけた。王子は姿かたちを変えるため肉屋から羊の胃袋を買って、それを頭髪の上に張り付けた。仕事仲間は少年のことをクレイユーン(小さな禿げ頭)と呼んだ。

王子は、馬が恋しくなるともらった毛に火をつけて呼び出していた。(馬はまるでジンのようにどこからともなく鞍を背に現れる。)

ある日、この国の王の末娘が、馬を駆るクレイユーンを見かけて一目ぼれする。それを姉に言うと、あねたちは自分たちもその男と結婚したいと王に進言した。

それを聞いた王は「未婚の若者は、一人残らず王宮の窓の下まで参上するように」というお触れをだす。若い男たちはめかしこんでやってきて。王女たちは窓辺からそれぞれ気に入った男たちを指名した。

末の王女は、クレイユーンを選んだ。

④病んだ義理の父である王を、魔法の力で癒すクレイユーン

しかし、末の娘を愛していた王は、その娘が禿げ頭の庭師を選んだことに心を痛めて、病の床に臥せってしまった。

医師と占星術師は、王の病をいやすには純白のガゼルの乳しかないと告げられたので、このたび婿になった男たちはそうしたガゼルを求めてあちこち馬を駆けさせた。しかし、純白のガゼルなど見つかるはずもなかった。

そんななか、クレイユーンは魔法の馬の毛を一本もやしてジンの馬を呼び出し、純白のガゼルの群れを見つけてもらった。ほかの婿たちもやってきて、ガゼルを一頭ゆずってもらうように頼まれたので、クレイユーンは「一頭、ひいていってもいいよ。でも、その前にみんなのお尻に焼き印を押させてもらうよ」と言った。婿たちは相談の末条件をのんだ。

メモ(国会図書館デジタルアーカイブのリンクあり)

→小沢俊夫「世界の民話3」『魔法の馬』

余談:「アラジン」は男性版シンデレラか→たぶんそう(近い)

継子
灰まみれ、煤まみれ
魔法あるいは妖精の馬の制御
魔法の馬の助けで宮中にとびあがって王女を獲得

…違うところは多々あるがまあ現代人からしてみたら、アラジンも抽象化すると男性版シンデレラの範疇として見なせるだろう。(研究者の研究的にはイロイロ言われるかもしれないが)

「男性版シンデレラの起源、中国じゃね?」byフィリップ・ヴァルテル

男性版シンデレラの物語はヨーロッパで中世から存在していたということ、それは極東の発明ではないということは、これであきらかになったであろう。

(参考:フィリップ・ヴァルテル「へエブラと西欧の男性版シンデレラ」p.306-307

…あきらかになったのかどうかは、正直シロウトの私には判断できないのであるが、アカデミシャンがそういうのだから、現状はソレであるということを念頭に置いておきたいと思う。

へエブラについては、中国起源であると仮定することも不可能であるまい。

(参考:フィリップ・ヴァルテル「へエブラと西欧の男性版シンデレラ」p.307

参考文献一覧