「アスモダイと狐」あらすじ
むかし、ソロモン王がアスモダイを捕まえて瓶に詰めて捨てた。それから長い時がたって。
ある貧しい男が空腹を抱えながら海辺をあるいていると、海面に浮かぶ瓶を見つけた。男は、なにかうまいものが入ってるかと思ってその瓶を開ける。するとなかから煙が出てきて、その煙が人間の形をとりはじめた。
仰天する男に、煙の主は「おれは魔神アスモダイだ」と名乗り、「何か食いたい」と要求する。しかし自分も空腹で困っていた男は、「お前に食わせられるものはない」と言い返す。
らちがあかないやりとりをしばらくしたあとアスモダイは「裁判所で決着をつけよう」と言う。
裁判官の前で、魔神アスモダイは「男が瓶を開けておきながら食べものをくれない」ことを訴える。
裁判官は、「魔神をビンにもどすか、たとえまずしくても魔神に食べ物をあてがうかしなければならない」と言い渡す。
男は納得できなかったので、そのあとも何人かの裁判官にたずねだか、判決は同じ。なので男は逃げ出してしまう。
しかし、すぐに追いつかれ襲われそうになったとき、狐が現れて男に状況を尋ねてきた。
それを聞いた狐は「へん、2人とも嘘をついているね!」と言い出す。
「けむりが人間になるなんて、あるわけない。」「ほんとに煙になったら信じてもいいけど」
それを聞いたアスモダイは煙になった。そして「ビンに入ってみてくれ」と言う。
魔人が瓶のなかにはいると、狐は漢に蓋をするようにうながす。
アスモダイをふたたび封印することに成功したおとこは、瓶を海に流す。、
そして、狐が「おれについてくれば金持ちにしてやる。だけど約束してくれ。おれが先に死んだら、りっぱな葬式をして、りっぱな墓を立ててくれ。あんたが先に死んだらおれも同じようにするから」と言ってくる。実はこの狐も魔神であったという。
男はそれを誓い、2人は美しい大きな町に行って、ある魔神を所有している城を乗っ取る。(魔神を殺し、その妻をもらう)
そうして貧しい男は城と妻を手に入れた。
狐は他の人々には狐にみえていたが、男とその妻にはふつうの人間に見えた。しかし、ある日妻が「あの従者は狐になることがあるようなのですが、どういうことですか?」と尋ねてきたので、男はいままてのことを全て妻に打ち明けた。妻は、狐との約束を破らないように忠告する。
やがて、狐は男が約束を守るか確かめるために死んだふりをする。しかし男は狐の死体を捨てるように部下に命じる。狐は起き上がり男に怒ったので、男は謝って許しを乞う。しかし、狐がまた死んだふりをすると、男はふたたび約束を破って狐の死体を捨てさせようとした。
狐がやがて本当に死ぬと、男はまたきつねを捨てさせた。
だが、それで全てが終わりではなかった。
ある日、狐の後継の魔神たちがやってきて、妻を父王のもとにもどすと、男を城からたたきだし、無一文のまま、通りに放り出したのだった。
参考:「お静かに、父が昼寝しております」p.60
補足
THE JEWISH ANIMAL TALE OF ORAL TRADITION
[SIPULEI BABLEI-CHAIM B-EDOT ISRAEL]
by Dov Noy
アスモダイ(アスモデウス・アシュメダイ)は、
(参考:「ユダヤ民話40選」株式会社六興出版・1980年p.43~
トビト記以降はタルムードでよく言及されるようになり、
伝説や民話の中では人間に好意を持ち、
友人として描かれることが多い
中世のユダヤ人は、アスモダイがユダヤ教を実践しトーラーを研究したと一般的に信じた
(引用:「ユダヤの民話 上」青土社・1997年・出典についてp.ⅵ)
補足
「ヴァチカンのエクソシスト」(映画版)の冒頭の悪魔とのやりとりが、この狐とアスモデウスのやりとりを彷彿とさせたので、このお話をインターネットの海に放り投げてみたいなぁと思いました。
(「ヴァチカンのエクソシスト」ではアスモデウスが本命敵の立ち位置で登場すると聞いたので⇐)
コメント欄にもありますが、「三枚のお札という話も、力があるなら饅頭より小さくなってみろ!と鬼に言い 小さくなったところでお坊さんが鬼をペロリと食べて退治したという話でした。」とあり、私もこのお話を読んだときはやっぱりこれを思い出しました。中東のほうでも語られているやり方が、現代のエンターテイメントでも受け手にそれなりに「おっ」と思わせるやり取りなんだなぁと改めて再認識したので、ちょと感動しました。(私の展開を読む力の弱さゆえに人より多めに感動しているだけかもしれない)
ユダヤ民話は筋が通っている印象が多いので、男がちゃんと因果応報みたいな感じになっている結末で、ちょっとホッとしました。
私は日本の民話だと異類婚姻譚を中心に触れることが多いのですが、日本の異類婚姻譚(とくに異類婿譚)はどうしても約束を反故にするような展開が基本のため、『別に約束は守らなかったけど、男は幸せになりました』ENDもあるかも…とハラハラしながら読みました。